「星野リゾートがワーケーションプランを始められたり、帝国ホテルやホテルニューオータニがサブスクリプションサービスをスタートさせたりと、業界のトップランナーたちが意欲的な取り組みを進めていくなか、では、和多屋別荘に何ができるのか。どう差別化をはかっていくのか。『まわりが始めたので、私たちも同じようなことを始めてみました』で留まるようなワーケーション事業では意味がないと思いました。
そこで導き出されたのが、日本でトップレベルのプレミアム感を備えたワーケーション、もっと言ってしまえばトップレベルの値付けでも満足していただけるワーケーションというコンセプトでした。我々の手がける温泉ワーケーションの裏テーマは“経営者ワーケーション”。当初から、メインターゲットを年収1200万円~2000万円のエグゼクティブ層に設定して、準備を進めていったものなんです」(小原氏)
エグゼクティブ層にフォーカスしたのは、ワーケーションで訪れた顧客をサテライトオフィスへと誘導する意味合いもあるという。サテライトオフィスの“お試し”として、ワーケーションでの利用を入口にする立て付けだ。
都市部にはない温泉旅館ならではの魅力をアピールするなら「エグゼクティブ層」
「そもそも温泉旅館は、ワーケーションをする環境として高いポテンシャルを秘めています。衣・食・住でいえば、食・住に関するインフラが完全に整っている。大抵は田舎にありますから都市の喧噪から離れられますし、三密回避も容易です。周辺には豊かな自然──嬉野でいうと、美しい山や川、のどかな茶畑──がすぐそばにある。ゆったり温泉に浸かることもできる。
テレワークをする場として考えた場合、温泉旅館には都市部のタワーマンションやラグジュアリーホテルのレジデンシャルに真似できない、恵まれた環境が揃っているんです。そして、そうしたストロングポイントに率直に共感していただけるのが、エグゼクティブ層ではないかと仮説を立てて、事業を進めている最中です。
料金設定は、たしかに高めだと思います。ただ、不遜に聞こえるかもしれませんが、たとえば当館のコワーキングスペースを『1時間500円』のようなドロップイン(ふらりと立ち寄る=一時利用)で提供しても、あまり意味がない。和多屋別荘である必要性がないからです。利用者からすればオーバースペックですし、事業的に成立しません。
我々の『温泉ワーケーション』では、当館の環境、設備を幅広くご利用いただけるだけでなく、120人からなる従業員がワーカーさんをサポートする形になります。大きなことを言ってしまえば、120人のバトラー、コンシェルジュが1人のワーカーさんを支援している形です。
もちろん、我々にもまだまだ至らない部分はありますし、サービスのクオリティをさらに向上させていかなければと肝に銘じています。それを踏まえつつ、やはり温泉旅館は、テレワークをする場として最強になりうると確信していますし、そうあるために努力していきたいと思っています」(小原氏)