「上演が再開した日、私は『ライオンキング』に出演していました。最初の曲は、動物たちが生きる喜びを歌う『サークル・オブ・ライフ』。いつもなら、1曲目の冒頭で拍手が起こることはなかったのに、その日はものすごい大拍手で迎えていただけた。舞台上にいるのに、涙をこらえきれないほど幸せでした。
それまでは、“自分がいいパフォーマンスをするためにもっと努力しなきゃ”という、自分主体の気持ちが強かったのですが、この経験で“私の仕事は誰かの役に立っていて、それこそが舞台に立つ喜びなんだ”と実感しました」(牧さん)
4月16日に全国公演が開幕した『劇団四季 The Bridge 〜歌の架け橋〜』の東京公演の初日は、コロナ禍真っ只中の今年1月10日。出演者の笠松哲朗さんはこの日のことをこう語る。
「冒頭のせりふのとき、まだ舞台上は暗い。それが、歌い始めると共に一気に明るくなって、ぼくたちからも客席が見えるんです。びっくりするくらいたくさんのお客さまがいらっしゃるのが見えた瞬間、思わず泣きそうになりました。あのときの気持ちを一生大切にしたい。
緊急事態宣言が明けてから、別の劇団の舞台を観に行きました。ネットの書き込みを見て打ちひしがれていたのが、生の舞台を観たら“やっぱり、みんなで1つの舞台をつくるって、最高だな”と思えた。舞台が、傷ついて色あせてしまったぼくの世界に色を取り戻してくれた。舞台は、観る人のことも、出演する人のことも救ってくれるんです」
撮影/平野哲郎 提供写真撮影/阿部章仁、荒井健、重松美佐、山之上雅信
※女性セブン2021年5月6・13日号