70代、80歳代でも働く社会で終身雇用などできるはずがなく、少子高齢化で若い世代の価値が上がったのに入社後10年も下積みさせるなんてことができるはずはありませんから、年功序列も維持できません。日本的な人事制度はすでに機能不全に陥っていて、これからは専門性によってスポット的に社員を採用し、仕事がなくなったら会社内で他の業務に転属するのではなく、いったん労働市場に戻って、専門性を維持しながらキャリアを継続するグローバルスタンダードの働き方に変わっていくでしょう。
だからこそ重要なのは、若いうちから自分の専門性を磨いておくことです。適職を探すためにトライ・アンド・エラーするのは20代、できれば20代前半までで、それ以降はすべてのリソースをひとつのキャリアに注ぎ込む。「自分探し」を否定はしませんが、場当たり的にいろいろなことに手を出してばかりいると、労働市場の競争から脱落してしまいます。
経済格差は道徳的な問題ではなく、収入に差があるからです。年収300万円と年収400万円でも、年50万円を積み立てて複利で運用すれば、30年後、40年後には大きな資産の差ができます。年収300万円と年収1000万円なら、あっという間に「上級国民」と「下級国民」に二極化していきます。
当たり前ですが、頑張って勉学に励み、博士号を取ってシリコンバレーやウォール街で高い収入を得ることは不道徳な行為ではありません。リベラルな社会で、誰もが「自分らしく生きたい」「夢を実現したい」と頑張ることによって、格差が拡大して社会が分断されていく。これが現代の「不都合な真実」です。
だからといって、グローバル資本主義でなにもかもうまくいくと主張するつもりはありません。「脱資本主義」のよりよい経済制度・社会制度があるのなら、それに向けて議論するのも大事でしょう。しかし、20歳の若者に「あと50年たてば社会はずっとよくなる」と言っても、何の意味もないでしょう。結婚して子どもを産もうかどうか迷っている30歳前後の女性に、「あと20年待てば日本も男女平等の世の中になる」と言うのも同じです。よりよい社会を目指すことは否定しませんが、多くの人が求めているのは、まさに今、どうすれば自分や家族が幸せになるかでしょう。