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コラム

2021.05.05 07:00  マネーポストWEB

コロナ禍に苦しむインド発の世界的金融危機は本当に起こるのか

インドのコロナ禍が金融危機につながる可能性は(EPA=時事)

 本連載の前回記事〈中国で医薬品株が再度急騰 コロナ禍が収束気配なのになぜ?〉(4月28日公開)で「インドのコロナ禍が中国本土医薬品セクターの株価上昇に繋がっている」ことを伝えた。これは株価が上がる明るい話だが、もちろんポジティブな面ばかりではない。インドがコロナ禍で経済危機に陥り、それがグローバルな危機へと発展するのではないかと懸念する声も聞かれる。

 中国メディア「21世紀経済報道」が、ファンドの分析を行うアメリカ「EPFR Global」の最新データを引用しながら危機の全容を詳しく説明している。一部情報を付け加えながら、要旨を簡潔に纏めると、おおよそ以下の通りである。

 コロナ禍により、悪性インフレ、サプライチェーンの分断などが起こるリスクが高まっている。銀行では不良債権が急増、破綻の連鎖が起きかねない。

 インド経済はグローバル化が進展、アメリカからはIT産業を中心に企業間の取引が増えている。一方、世界の工場「中国」からは、自国で需要を満たすほど供給力のない多くの製品が輸入されている。貿易構造をみると、2019年の輸出先ベスト5は、アメリカ、UAE、中国、香港、シンガポール、輸入先ベスト5は中国、アメリカ、UAE、サウジアラビア、イラクである。

 インド経済は米中いずれとも密接な関係にあるが、金融市場では圧倒的にアメリカとの関係が強い。

 リーマン・ショックに端を発した金融危機以降、金融市場の対外開放が急速に進んだ。特に、2012年1月、非インド国籍の個人投資家に対して株式市場を開放して以来、外国人比率が急速に高まっている。持ち株ベースでは3割以上、出来高ベースでは5割以上を外国人投資家が占めている。この内、英米の投資家が大半を占める。こうした状況で、彼らが資金を流出させてしまえば、それがきっかけで再び金融危機が起きかねない。

 インドの金融市場は未発達で、金融行政の及びにくい中小金融機関の比率が高い。金融当局の政策が稚拙である。当局のコロナ対策が行き過ぎている。不良債権の返済猶予がモラルハザードを起こしており、金融機関の経営を圧迫している──。

◆アメリカの支援表明でインド株、インドルピーが反発

 以上、「21世紀経済報道」の内容は結構ショッキングなものだが、実際の状況はどうかといえば、インドSENSEX指数は2月中旬以降下げトレンドを形成していたものの、4月22日を底に一旦、反発している。インドルピー対ドルレートは3月中旬以降急落したが、足元では4月21日を底に戻している。今のところ危機と呼べる水準からは脱しているようにもみえるが、これはアメリカによるインド支援が大きく影響している。危機の元凶である新型コロナウイルス感染拡大の沈静化に、アメリカが手を貸す方針を打ち出しているからだ。

 アメリカ国家安全保障会議は4月25日、ワクチン原料や治療薬、検査キット、人工呼吸器、個人防護具などを提供すると発表した。バイデン大統領は26日、モディ首相と電話会談を行った際、コロナ禍に苦しむインドに対して「ゆるぎない支援を行う」と約束した。

 中国に対して包囲網を敷こうとしているアメリカにとってクワッド(日米豪印)の一角であるインドは政治的に重要な国である。中国に支援させたくないという思惑も働いたであろう。

 アメリカがインドを支援するならば、インド株、インドルピーは底堅く推移するといった見方もできるかもしれない。

 それにしても、金融の力は大きい。新興国における金融の自由化、グローバル化は大袈裟に言えばその国の主権を揺るがしかねない。逆に言えば、金融強国にとって自由化、グローバル化は国家の影響力を強める強力な武器となる。

 しかし、アメリカでは、金融の自由化、グローバル化を進展させたことで、それが回り回って国民の間に大きな格差を生み出している現状がある。

 アメリカが格差是正を図るのであれば、金融の自由化、グローバル化の動きは止まってしまうのだろうか。

 アメリカは同盟国、経済的な関係の近い国において経済、金融の結びつきを強めようとし、中国は一帯一路制作を通じて関係国との結びつきを強めようとするだろう。インド発の金融危機は起こらなくても、世界の分断、ブロック化は加速していくのではないだろうか。

文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動中。メルマガ「田代尚機のマスコミが伝えない中国経済、中国株」(https://foomii.com/00126/)、ブログ「中国株なら俺に聞け!!」(https://www.trade-trade.jp/blog/tashiro/)も展開中。

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