──今回は赤い鳥『翼をください』が発売された「1971年以降の昭和女性ポップス」を条件に各自、ベスト10を選んでいただきました。まずはそこから……。
半田:その前に、ぼくに1970年に発売された作詞家・安井かずみさんの『ZUZU』というLPをぜひ紹介させてください! これが、ハイパーアルバムなんですよ、ぼくの中で。おふたりは聴いたことはありますか?
田中:いいえ。ただ、安井かずみさんは好きなのですごく興味あります!
半田:このLP、安井さん自身が作詞と歌唱を、作曲や編曲は、かまやつひろしさん、沢田研二さん、日野皓正さんなど、安井さんの友達12人が手掛けたものです。1曲目からボサノバ調で力が抜けていてしゃれた歌。はっきり言って、このLPは“ユーミンよりも早いユーミン”。これこそシティポップ、日本のポップスの礎というべき隠れた名盤だと思うのです。
──1970年にこんな隠れた名盤があったんですね。
半田:隠れた名盤といえば、あべ静江さんの『TARGET』(1976年)や、いしだあゆみさんの『アワー・コネクション』(1977年)は、歌謡畑の人がポップスに挑戦したLPです。
──昭和女性ポップスの世界は、シティポップ以外にもいろいろあって深いですね。早速、6~10位を見ていきましょう。
半田:実は、今回はほかの人とかぶらぬよう「スタート地点は歌謡曲ながら、時代によってポップスにチャレンジした先駆者」という視点で選びました。そのため、6~10位の5曲は同率6位です。
まず、小川知子さんの『別れてよかった』(1972年)は、サウンド的にA&M音楽(※1)を志向した曲です。作曲・編曲の川口真さんは、ヨーロッパ系の要素を歌謡曲に取り入れた先駆者で、ウイスパー系で囁くように歌わせています。ジャンルレスと評価される金井克子さんの『他人の関係』(1973年)の下敷きになったのでは?と、ぼくは勝手に推察しています。
【※1/A&Mレコード」は、アメリカのトランペット奏者で音楽プロデューサー 、ハーブ・アルパートらが設立したレコードレーベル。深夜ラジオ『オールナイトニッポン』のオープニング曲のような、アメリカ音楽とメキシコ音楽を合わせたような曲調が特徴】
由紀さおりさんの『ヴァリーエ』(1971年)では、すごくかわいらしい声が印象的。歌謡曲とは違う発声法をする点がさすがです。最近では斉藤和義さんの『歌うたいのバラッド』(1997年)もカバーしているほど、由紀さんはジャンルレスです。
麻生よう子さんの『逃避行』(1974年)は作曲の都倉俊一さんの存在が大きい。和製カーペンターズというか……カーペンターズの『Close to you(遥かなる影)』(1970年)をどこか彷彿させます。
桑江知子さんは好きな歌手の1人で、特に『Mr.Cool』(1980年)は本当にメロウ。いまのシティポップファンにも受け入れられるクオリティーです。
岡崎友紀さんの『グッドラック・アンド・グッドバイ』(1976年)は、言わずと知れたユーミン提供のオリジナル曲。彼女の手にかかるとすべてがポップスになる。ユーミンの天性の音楽性も大きいですね。
田中:私の10位、高田みづえさんの『硝子坂』(1977年)は、よく行くバーの外国人客に大人気で、ジュークボックスでかかると、最高に盛り上がるそうで、とても興味深くて。
半田:何が外国人ウケするか、わからないからね。
田中:9位は中島みゆきさんの『ファイト!』(1983年)。この歌を聴いて号泣した人を近くで見たことがあって、そのとき、歌の力を見せつけられたのが選んだ理由です。
半田:暗い歌い始めからの盛り上がりがすごい。ただ、ポップスの印象からはいちばん遠いかもしれませんね。