新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、過酷な労働に携わっているのは医師や看護師だけではない。特殊清掃を請け負う会社「ペガサス」の女性清掃員(21)は、今年1月から川崎市立多摩病院で働き始めた。週6日、コロナウイルス感染者が入院する病室(13部屋)、集中治療室(2部屋)、廊下などを1人で消毒・清掃している。
「感染対策をしているとはいえ、患者さんがいる場所で作業をするので感染リスクもある。うめき声が聞こえてくることもあって、最初は戸惑いました」
感染者の病室が並ぶ「レッドゾーン」に入る前に完全防護する。防護服の上にエプロン、ヘアキャップ、アイガードを付け、マスクと手袋は二重に装着。消毒用ウエットペーパーを使って、手すりや机など人の手が触れる箇所を拭いていく。
「防護服はとにかく暑い。簡単に脱ぎ着もできないので、作業がひと段落するまで数時間はトイレにも行けません」
朝9時に出勤し、作業が終わるのは18時頃になる。感染防止のために病院でシャワーを浴びてから、家路につく。自宅に着くとすぐに洋服を脱いで洗濯し、再びシャワーを浴びる。
「4月半ばにワクチン接種を完了しましたが、その効果がどこまであるのか分からない。最近は20~30代の患者さんも増えていて、不安は常にあります」
「息子に会わせて」「家に帰りたい」「死にたい」──患者からそんな声をかけられることもある。
「目の前に苦しんでいる患者さんがいるのに、私にはどうすることもできないのが一番つらい。何度も仕事を辞めようと思いました」
現場は深刻な人手不足に悩まされている。感染の危険と隣り合わせの作業は精神的負担が大きく、新しく人が入ってもすぐに辞めてしまう。この現場も以前は複数人で回していたが、現在は1人で作業につく。
仲が良かった友達に連絡すると、「ごめん、その仕事をしているうちは会いたくない」と言われたこともある。休みの日は自宅で過ごし、「YouTubeで大好きな韓流グループの動画を見るのが息抜き」と笑う。そんな娘を同居する母親は応援している。
「家族への感染リスクもあるので、仕事を決める前に母に相談したら『医療現場で働けるなんて、いい経験だからやってみたら』って後押ししてくれたんです。毎日、夕飯を作って待ってくれています」