コラム

遺産が「持ち家のみ」は相続で揉めやすい 自宅売却を強いられることも

遺産が「持ち家のみ」だとトラブルになりやすい理由は?(イメージ)

「遺言書は用意してある。俺が死んでも、みんな心配しなくていいから」。都内に住む50代男性は、生前の父親からそう言われていた。しかし、一昨年に父親が他界すると、次から次へとトラブルに直面したのだ。

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「実家に保管されていた遺言書にたくさんの不備がありました。そもそも日付がなくて無効だったし、遺産の分け方にしても『定期預金は妻に』『田舎の土地と普通預金は長男と次男で分ける』といった大まかなことだけ。銀行口座の数も、土地の地番などもはっきりしない。

 それでも、遺産を洗い出し、父の考え通りに分けようと思ったのですが、弟は自分の事業がちょうどうまくいっていない時期だったこともあって、“遺言書が無効なら、自分の取り分はもっと多いはずだ”と主張し始めたのです。

 70代後半の母は息子ともめることに落ち込み、体調を崩して一気に老け込んでしまった。結局、私が折れて二束三文にしかならないうえに処分しにくい田舎の土地だけを引き受け、母の取り分ができるだけ残るようにしました」

 死んだ後では、大変な思いをしている家族を助けることも、争いを仲裁することもできない。「あの人はなんでこんな死に方をしたのか」――そんなふうに、死後に家族から恨まれた人たちは、どこで「備え方」を間違えたのか。

◆「この一件以来、娘とは口もきいていません」

 トラブルが大きくなりがちなのは、主な遺産が「持ち家のみ」というケースだ。とくに、残された妻と子がもともと疎遠だと、相続を機に決定的な亀裂が入り、自宅を手放さざるを得ない事態を招くこともある。

 以下は「評価額3000万円の自宅」と「預貯金400万円」を、残された妻と一人娘が相続したケースだ。

 妻は亡き夫と2人で守ってきた家に住み続けたいと考えていたが、すでに家を出て両親と疎遠になっていた娘は、法定相続分の1700万円を要求して譲らなかった。

「妻の私が自宅を相続する代わりに、娘に現金で1300万円渡せればよかったのですが、そんなお金はありません。娘を説得できないまま、自宅を売って遺産を分けるしかなかった。新しい住まいを探そうにも、高齢の一人暮らしが入居できる賃貸物件がなく、大変な思いをしました。この一件以来、娘とは口もきいていません」(68歳女性)

 税理士の山本宏氏はこう指摘する。

「遺産の総額が課税対象額以下でも、故人の妻と子供の仲が悪い場合は、持ち家の相続をめぐりもめることが多い。現預金が少ないと、遺産分割のために自宅を売却する必要が生じることもある。

 こうしたトラブルを防ぐには、生前に親と子が話し合い“誰が自宅を相続するのか”を明記した遺言を残すことです。効力のある遺言書があれば遺産分割協議の必要がなくなり、残された妻と子のもめごとを回避できる可能性がある。また、民法改正で2020年4月から設定できるようになった『配偶者居住権』を利用する方法もある。遺言書で妻に自宅の『居住権』、子に『負担付所有権』というかたちで設定すれば現預金が少なくても遺産を分割できます」

※週刊ポスト2021年6月18・25日号

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