妹・未知と共にもう一人、つい目が行ってしまう独特な登場人物が。もし未知が「動的」な存在だとすれば、「静的」な存在。しかし気になる人物という意味で共通しているのが、陰翳を抱えた漁師・亮(永瀬廉)です。
亮はまだ多く語ってもいないし画面に出る時間も短いのに、妙に余韻を残す。父・新次(浅野忠信)との間にも問題を抱えていそうで、翳りを感じさせるキャラクター。そもそもジャニーズ・King&Princeのメンバーが出演ということで注目を集めてきましたが、引き算の演技で訳ありの事情を匂わすのは、なかなか難しいこと。永瀬さんの芝居感覚が視聴者の関心をこれからも引っ張っていきそうです。
蒔田彩珠と永瀬廉。若い二人が主人公・百音に影響を与えていく、というドラマ構成も面白い。「透明」な百音が周囲によってじわりじわりと彩色されていく……。
今回の朝ドラの脚本を担当しているのは安達奈緒子さん。『透明なゆりかご』(NHK総合2018年)で産婦人科を舞台に妊娠中絶や死産、DVといった社会的な問題を描き話題になりました。十代の清原果耶さんが初主演し看護師見習いのアオイを演じて、高い評価を受けクローズアップされるきっかけになったドラマです。また、『きのう何食べた?』(テレビ東京2019年)では会話劇によって中年ゲイカップルの活き活きとした日々を描き出しベテラン役者・内野聖陽さんを改めて輝かせた。安達脚本とはいえ両作ともに原作があったドラマだけに、今回の朝ドラで安達さんのオリジナルの本に一層の期待が集まります。
その安達さんの本ゆえに、さまざまな現実的な問題が潜む。例えば銀行員の父・耕治(内野聖陽)は震災被災者との間に複雑な人間関係を引きずり、金融機関の判断が誰かの人生を狂わせたかもしれない、といった不穏な気配が漂います。
あるいは震災時に百音が島を離れていた理由として音楽があり、それが百音と父を苦しませる。大好きだった楽器をやめて音楽から離れた経緯も、いずれ伏線となって効いてくるはず。カキの養殖業、漁師、住職、お盆の風習、年中行事といった固有の土地の風景も鮮やかに描かれていきます。
風を読んで天気の変化を予測する知恵は、命と直結している。自然や土地との対話でもある。「気象予報士になる」という主人公の成長を軸にしながら、さまざまな異質な素材が絡み合い震災という現実と虚構の物語による独特な織物が生まれてきそうな『おかえりモネ』。見所が満載の予感です。