『お見立て』は喜瀬川花魁の描き方が抜群にリアル。したたかでワガママで、しかも色気と愛嬌を併せ持つこの女なら、確かに男を騙すのもお手のものだろうと思える。田舎者の杢兵衛に焦がれ死にしたという作り話を喜助に聞かせる芝居がかった語り口の楽しさはぴっかり☆ならでは。杢兵衛と喜瀬川の板挟みとなる喜助の生き生きとした描き方も魅力的だ。この『お見立て』なら、来春の真打昇進後のぴっかり☆にとって、強力な武器になるだろう。
持ち前の華やかさで“女性であること”を積極的に活かしているぴっかり☆。古典の中で女性の登場人物を活躍させる柳亭こみち、女性目線による新作の弁財亭和泉に続き、ぴっかり☆もまた独自のアプローチで“女性演者だからこそ楽しめる落語”の世界を確立しようとしている。昇進後の飛躍に期待したい。
【プロフィール】
広瀬和生(ひろせ・かずお)/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。『21世紀落語史』(光文社新書)『落語は生きている』(ちくま文庫)など著書多数。
※週刊ポスト2021年6月18・25日号