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2021.06.18 18:37  BOOK STAND

【今週はこれを読め! ミステリー編】疾風怒濤のホラー西部劇『死人街道』

『死人街道』ジョー・R・ランズデール,牧原勝志(『幻想と怪奇』編集室),植草 昌実 新紀元社

 神を激しく憎みながらその憎悪の対象に祈りを捧げる以外の生き方を知らない男。
 それがジョー・R・ランズデール『死人街道』(新紀元社)の主人公、ジュビダイア・メーサーである。町から町に流れて歩くジェビダイアは牧師だが、腰には常にコルト・ネイヴィを携えている。神に仕える者が銃を撃つのかと訊ねられれば、異端者には剣を向けざるをえないこともあるだろうと嘯くのである。そんなジェビダイアが闇から這い出てきた化け物と闘い、信仰の力と鉛の弾、主に後者を用いて打ち倒していく。
 ジョー・R・ランズデールが日本で知名度を得ることになったきっかけは軽快な犯罪小説〈ハップ&レナード〉シリーズが訳されたことである。コンビの主役はストレートで白人のハップとゲイで黒人のレナードだ。シリーズ中では最初に訳された『罪深き誘惑のマンボ』(角川文庫)では、この二人が人種偏見が根強いテキサスの田舎町に乗りこんでいくことから起きる軋轢が描かれた。合理性よりも地縁や血縁に基づいた因襲を重んじる南部州の風土は、ランズデール作品を成立させている重要なピースだ。MWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞最優秀長編賞を受賞した『ボトムズ』では子供の視点を用いて、理不尽な死が日常と地続きのところにある恐怖が描かれた。初期の作品である『テキサス・ナイトランナーズ』(文春文庫)は、内奥の獣性を目覚めさせた者たちによる暴力の祭典小説である。
 そうした暴力小説作家の側面と同時に重要なのがホラー作家としての顔であり、このジャンルの優れた小説に送られるブラム・ストーカー賞をランズデールは複数回受賞している。『死人街道』の前に翻訳された『現代短篇の名手たち4 ババ・ホ・テップ』(ハヤカワ・ミステリ文庫)の表題作は、身代わりによって自分の死を偽装し、今は養老院で静かな余生を送っているエルヴィス・プレスリーと人間の精気を吸い殺す化け物とが死闘を繰り広げるという中篇だった。ドン・コスカレリ監督で『プレスリーVSミイラ男』として映画化されたのでご覧になった方もいるだろう。
『死人街道』でランズデールが発揮しているのはホラー作家としての技量である。ページ数の約半分を占める「死屍の町」は年刊誌Eldritch Talesに連載されたものだ。訳者あとがきにも書かれているように、パルプ・ホラー誌といえばまずその名が挙げられる〈ウィアード・テイルズ〉への尊崇の念が明らかにされている中篇である。同作がジェビダイア・メーサー牧師の初登場であり、それ以降に書かれた四短篇が本書には収録されている。訳者によれば、もう一篇単行本未収録のものがあるという。
「死屍の町」は西部の町をアンデッドたちが襲うゾンビ・ホラー小説だ。鉄則通り脳を破壊しないと死なないアンデッドたちは身体がばらばらになったぐらいではくたばらない。「肋骨が音を立てて組み合わさり、腐肉のかたまりが見る間にまとわりついて、胴体の形にな」り、床を這う腕が転がった頭部を捧げ持って合体しようとする復活の場面は悪夢そのもののおぞましさである。ジェビダイアの過去についてはこの作品でのみ語られる。彼が神を呪うようになったきっかけは南北戦争に南軍側として参加したことと、実の妹と近親相姦の禁忌を犯したことがきっかけだと思われる。呪われた町マッド・クリークでその妹を思わせる女性アビーと出会ったジェビダイアは、彼女ともう一人、希望を教えてくれた少年デイヴィッドを守るためにアンデッドたちと闘うのである。
 最初の「死屍の町」では暗い炎ながらも胸中に情念を燃やし続けているように見えたジェビダイアだが、その後の短篇では斜に構えたキャラクターが強調されていく。彼が神を呪う言葉を吐く場面は各篇の定番と言っていい。聖書を携帯していると安心か、と訊かれたジェビダイアはこう答えている。

「[……]人や獣を殺すことや、近親相姦や強姦について書いた本だから、安心には縁遠い。だが、ここに書かれているのは私自身のことでもあるし、誰のことでもありうると信じている」「イエス様のところは、そんなにひどいことは書いてないけど」「だが、イエスは磔にされた。ひどいことだ。あいつのことだ、いずれはそうなると知っていたのだろうがね。背負った代償は大きすぎた」(「人喰い坑道」)

 悪態を吐きつつも神の使徒である牧師であることは辞めようとしない。そんな矛盾に満ちた人間像がジェビダイアの魅力である。そんな男が、妻を惨殺された怒りから死人使いになったインディアンや、封印が解かれて蘇った狼王や、人間をさらって奴隷として働かせようとする悪鬼たちと闘うわけである。アンチ・ヒーローを主役に配した単純明快な活劇であり、敵と味方の双方にどばどば犠牲者が出る。その派手さが本書の身上だ。疾風怒濤の物語を楽しんでいただきたい。
 なお解説の朝松健によれば、『死人街道』は〈ウィアード・ウェスト〉なるジャンルに属する作品であるとのことである。吸血鬼などの魔物が跳梁跋扈する西部を描いた作品群がそう呼ばれているのだ。作者による序文「牧師の旅は果てしなく、果てしなく続く」にもランズデールの西部劇愛は語られている。ホラーであると同時に西部劇が好きで好きでたまらない作者によるオマージュ作品でもあるのだ。
 たしかに〈ウィアード・ウェスト〉なる用語は初耳なのだが、日本には山田風太郎を代表格とする伝奇小説の系譜があり、TVドラマでも『変身忍者 嵐』などの妖怪変化を敵に闘うヒーローが人気を博してきた。時代もの+妖怪という設定を大好物とするファンも多いことだろう。そうしたチャンプルー(ごたまぜ)のエンターテインメント好きに広く本書をお薦めしたい。いっぱい人は死ぬけど。妖怪に食われて死んじゃうんじゃないのだが本書のベスト・オブ・死者は、蕪が嫌いな亭主を無視してスープを作ろうとしたら、その蕪で殴り殺されてしまったノーヴィルのママだ。そういう無意味な死が溢れた小説なのである。神も仏もないぞ。
(杉江松恋)

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