山田久志氏(時事通信フォト)

山田久志氏(時事通信フォト)

 忘れられないのは、1971年の巨人との日本シリーズ第3戦。私は巨人を0点に抑え、1-0で迎えた9回裏2死一、三塁。この場面で王(貞治)さんに逆転サヨナラ3ランを浴びてしまった。プロ入り後、初めて故郷の秋田から母親を球場に招待していた試合での痛恨の一球。私はマウンドにしゃがんだまま動けなかった。

 ショックで記憶もないほどで、気づいたら西本さんに抱えられてマウンドを降りていました。普通、サヨナラ負けした監督はベンチからスッと裏に消えます。しかし、日本シリーズという大舞台でありながら、監督がマウンドまで迎えにきてくれた。後になってジーンときましたね。

 現役時代に褒められた記憶はありませんが、私がユニフォームを脱いで真っ先に挨拶に言った時、西本さんはこう声をかけてくださいました。

「お前はやっぱりエースだったよ。本物だった。いいピッチャーに育ってくれた」

 泣きそうになるほど嬉しかったです。

 私が2001年に中日の監督になった時、キャンプ初日に西本さんが待っていてくれて、「ヤマ、監督は孤独や。非情になることや。それができるかどうかやで」と言ってくれました。でも、西本さんは非情ではなくて、ひと言で言うなら強烈な「頑固オヤジ」。こうと決めたらやり遂げる。私にとっては日本一の名将でした。

 監督時代には西本さんの態度を見習おうと思っていましたが、ダメでしたね。サヨナラ負けすると、スッとベンチ裏に引き上げていました(苦笑)。

※週刊ポスト2021年7月9日号

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