冒頭、掘り出し物を探している道具屋が「江戸を出てひと月半だが、この旅はダメだな。近頃はみんな目利きになっちまって、こっちが道具屋だってわかると何も見せてくれねえ」とボヤく台詞が印象的。これがあるからこそ、道具屋への共感が格段に増す。皮肉なサゲが秀逸な噺だが、小三治は茶店の主人の勿体ぶった態度と苛立つ道具屋の対比を絶妙に描き、“サゲを知ってるからこそ面白い噺”にしている。
ところで高座復帰後立て続けに演じた『粗忽長屋』、なぜかこれまで商品化されていなかったが、7月21日発売のCD20枚組「昭和・平成 小三治ばなし」(ソニー)に1989年の口演が収録されているという。小三治ファンは今すぐ予約を!
【プロフィール】
広瀬和生(ひろせ・かずお)/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。『21世紀落語史』(光文社新書)『落語は生きている』(ちくま文庫)など著書多数。
※週刊ポスト2021年7月16・23日号