退院時のマネジメント事務所の報告によれば、池江選手は入院中に合併症を併発し、化学療法の継続が困難になったことで2019年夏、骨髄移植などに代表される「造血幹細胞移植」を行っている。その後、同年12月の退院時には「寛解」したとされている。
寛解とは、骨髄の中の白血病細胞が5%未満の状態のことを指し、「治癒」とは意味合いが異なる。検査では見つからずとも、白血病細胞が残存している可能性がある状態を指している。
「寛解したとしても、まだ2年程度しか経っておらず、白血球の状態は不安定といえます。そのため、抗体が産生されにくい状態に変わりはありません。
池江選手のように造血幹細胞移植を行った患者さんの中には、術後数年間は、移植した細胞が体を攻撃する、GVHD(移植片対宿主病)という合併症を発症するケースもあります。それらを抑えるために、ステロイドなどの免疫抑制剤が投与されます。そうすると免疫不全の状態になるので、ワクチンを接種しても抗体はできにくくなります」(前出・上さん)
たとえ抗体が産生されたとしても、不安は残る。
「ワクチンの接種は抗体によって感染を防止すると同時に、感染した後の重症化を防ぐ目的もあります。しかし白血病患者の場合は抗体ができたとしても、その働きも弱い可能性があり、健康なかたほどの効果は望めない場合もあります。つまり、健康な人よりも新型コロナにかかった際に、重症化しやすいリスクを抱えているといえます」(前出・上さん)
池江選手のワクチン接種に関し、マネジメント事務所は「お答えすることはできません」とのことだったが、自らのSNSで重症化に関する不安を打ち明けたのには、こうした背景もあるのだろう。それでも彼女は、前だけを見続けてきた。
「池江さんはトレーニングを続ける中で、一時は『誰かのために泳ぐのではなく、自分が楽しいから泳ごう』という考えを抱いたことがありました。ですが、自分の泳ぎが周囲への恩返しになり、『コロナ禍で閉塞感が漂う日本を元気にできるのではないか』という気持ちもあるんです。
五輪期間中は海外からも多くの選手団や関係者が来日します。当然、感染リスクは高くなる。池江さんは人一倍、感染対策に気を配りながら、競技に挑まなければいけません。東京五輪はまさに“命がけ”ともいえるのです」(前出・スポーツジャーナリスト)
競技の初日は7月24日、池江選手は困難を乗り越えてスタート台に立つ。
※女性セブン2021年7月22日号