そんな個性派だからこそ、執筆業との親和性も高かったのだろう。小説家として『カモフラージュ』『累々』(共に集英社)と2冊の著書があり、4月には初のエッセイ集『ひみつのたべもの』(マガジンハウス)を上梓した。
こう並べていくと手広く活動しているようだが、松井に複数回インタビューした経験のある映画ライターの磯部正和氏は、「硬派な方という印象があります」と語る。
「以前のインタビューで、『自分にとって大切な場所』と女優業について話していた松井さん。フェミニンなルックスで明るい笑顔も魅力的ですが、役に対する向き合い方や、向上心など、真面目で硬派な一面が感じられます」
磯部氏が考える、女優・松井玲奈の魅力とは「芝居の対応力」だ。
「SKE48を卒業後、2017年に公開された主演映画『笑う招き猫』では、金髪ショートヘアで口が悪い女漫才師という、これまでの松井さんにはなかったイメージの役どころを演じ、ダブル主演の清水富美加さん(現・千眼美子)とのテンポの良い掛け合いを見せました。メガホンを撮った飯塚健監督は、松井さんを『瞬発力がある』と称賛していましたが、対峙する相手との間や呼吸に素直に反応できるからこそ、製作陣にとっても非常に心強い存在なのではないでしょうか。
その後の作品を観ていても、NHK連続テレビ小説『まんぷく』ではヒロイン・福子(安藤サクラ)の学生時代の親友、『エール』では、二階堂ふみ演じる関内音の姉を好演しました。さらに強烈なキャラクターしか登場しないドラマ『浦安鉄筋家族』(テレビ東京)でも、佐藤二朗ら歴戦の個性派揃いのなか、まったく違和感なく作品に馴染む毒舌ウエイトレス役をけれんみなく演じました。
主演としての輝きはもちろんですが、ヒロインや主人公に深みを与える役、さらには作品にアクセントをつける強烈なキャラクターもしっかりと演じられるからこそ、出演作が途切れないのではないでしょうか。2021年11月には、初の単独主演映画『幕が下りたら会いましょう』の公開も控えていますが、主演、バイプレイヤーとして、今後も大いなる活躍が見込める女優さんだと思います」(磯部氏)
マグマのような内面のエネルギーを女優業にひたむきにぶつけ、さらなる飛躍を遂げてくれそうだ。
●取材・文/原田イチボ(HEW)