2019年に発表された東京における三世代同居家族の割合は、わずか1.8%。夫婦・家族問題評論家の池内ひろ美さんがこんな指摘をする。
「いまや貫太郎一家のような家庭はほとんどないということ。きんばあちゃんだって、もし現代ならば高齢者施設に入ったり、ひとり暮らしをしているかもしれない。最近はおひとりさまで迎える老後がはやっていますが、ドラマを通して、家族に囲まれて年を重ねることが幸せだと、あらためて気づいた人が多いのではないでしょうか。いまの視聴者は貫太郎一家に自分自身を投影し、大家族への憧憬をかきたてているのだと思います」
浅田も、いまこそホームドラマが必要だと声をそろえる。
「たとえ家族で暮らしていても最近では家の中で『ご飯できたよ』などとスマホで連絡を取る家庭があるそうで、なんだか寂しいです。私は、コロナ禍は家族の絆についてあらためて考え直せるいい機会だと思っています。だからこそ、“貫太郎”が昭和を代表する作品だったように、いまの時代ならではのホームドラマが生まれるといいな、と思っています」(浅田)
小さなちゃぶ台を家族全員で囲み、時には取っ組み合いのけんかをしながら、お互いを許し合って生きていく。そんな家族の在り方に憧れを抱くのは、「失敗」や「ぶつかり合い」を過度に恐れるいまの時代への反発なのかもしれない。向田さんの妹・和子さんは、最近はコンプライアンスを含めて、失敗やぶつかり合いを恐れすぎている気がすると話す。
「失敗しないように行動すると、それ以上にもそれ以下にもならない。あのドラマは演技の経験のない歌手を主演にキャスティングしたり、生放送を取り入れたり、失敗やぶつかり合いを恐れずに久世さんや姉が新しいこと、やりたいことをどんどん取り入れていった。
貫太郎は短気だし、家族げんかも多かったけれど、お互いのダメな部分を認め合い、許し合っている。家族なのに言いたいことが言えない関係は、本当に寂しいと思う」
奇跡のドラマは「失敗を恐れない」精神から生まれたのかもしれない──。
※女性セブン2021年7月22日号