面白いという言葉とは裏腹に、運転手さんの機嫌が悪くなっているのが声色でわかる。この「オリンピックファミリー」はIOC委員など3千人余、各国オリンピック委員会の関係者1万4800人余を指すが、IOCによって実質的にスポンサー企業や代理店とその関係者も「ファミリー」に迎えられた。1都3県は完全無観客となるが、彼らオリンピックファミリーは一般観客を締め出したスタジアムでゆったりと、文字通りのVIP待遇で観戦する。
「勝手にやってろ、ですよ。あ、これ書いちゃっていいですからね」
意気投合したのかすっかりぶっちゃけてくれた。「勝手にやってろ」これほどまでに一般国民興ざめのオリンピックがあっただろうか。確かに関係ないのだから勝手にやればいいとなる。
「どうせオリンピックファミリーじゃないし」
これ、日本中の一般国民の気持ちを代弁してくれたような気がする。「どうせオリンピックファミリーじゃないし」いい言葉だ。以前、吉祥寺で取材した飲食店の店主は「他人のメダルなんてどうでもいいよ」と言っていた。これまた力のあるいい言葉だ。感動、興奮、メダル何個と大騒ぎ、国威発揚オリンピック大好きの日本人だったはずなのに。一般国民は自国開催なのに観客席には入れてもらえないどころか「オリンピックファミリー」にも入れてもらえない。つまりオリンピックにとって日本の一般国民なんて赤の他人だったということか。
「でも終電延長なくなったのはいいですね、稼げそうです」
なるほど運転手さんにしてみればそっちが重要、オリンピック大会期間中の7月21日から8月8日まで、JRと私鉄各社は深夜2時ごろまでの終電延長を決めたが、4度目の緊急事態宣言と1都3県の一律無観客決定で取りやめになった。そもそも早く帰れ、減便だと言ってるそばからオリンピックで終電延長なんて意味不明だった。
偉い人が見るためだけの五輪
「これからも私、オリンピックファミリーを乗せるんでしょうね。世界中から来る外人さんたち、コロナ大丈夫なんですかね」
エッセンシャルワーカーにしてみれば恐怖だろう。エビデンスなんてないのだから。
「ま、私らはお金をいただければいいんですけど」