39歳の誕生日だった7月22日のメキシコ戦では、2対2と追いつかれた7回途中に、無死1、2塁の大ピンチを背負った場面で降板した。リリーフした19歳下の左腕・後藤希友(みう)が火消しに成功し、日本はその後、無死2塁から開始されるタイブレークでサヨナラ勝ちした。
あわや逆転の大ピンチを招き、チーム最年少の後輩にマウンドを託す。こうしたことは日本の絶対エースであり続けた上野にとって自責の念にかられるかたちでの降板だったはずだ。
だが、上野は実にサバサバとこう答えたのだった。
「踏ん張れなかったのは心残り。でも身体はいっぱいいっぱいだったので、こんなもんかな。39歳をリアルに感じました(笑)」
後藤と交代する時に、上野は言葉を交わさなかった。それこそ信頼の証かもしれない。
「彼女は力のあるボールを投げられるピッチャーなので。無観客であることで、プレッシャーを感じることなく、のびのび投げられている感じがする。(19歳の年齢差があることは)自分もあんな感じだった。イケイケゴーゴーというか、全球全力! ハハハハ」
ライズボールやチェンジアップといった変化球は熟練の域に達し、何より「UENO」の名前は他国にとって脅威だ。かつ、頼れる仲間の存在もある。後藤は第4戦のカナダ戦でも6回無失点の上野からバトンを受け、7回とタイブレークで6者連続三振を奪うパーフェクトリリーフをみせ、第2戦同様に日本のサヨナラ勝ちを呼び込んだ。7月27日20時に予定されているアメリカとの決勝はメダルをかけた戦いとなるが、上野ひとりに頼らざるを得なかった北京との大きな違いがここにある。
ソフトボールは正式競技としては今回限りの復活だ。野球と共に、次回のパリ五輪から再び除外される。上野は未来のソフトボール界と選手のため、2028年のロス五輪から三度(みたび)復活させたいという秘めた思いを抱えて東京五輪を戦っている。
取材・文/柳川悠二(ノンフィクションライター)