行動遺伝学の第一人者で慶應義塾大学教授の安藤寿康さんも言葉を重ねる。
「あらゆる能力や心理的な個人差は、遺伝と環境の両方が影響しています。遺伝的要因と環境的要因を長方形に見立てて、縦の長さが遺伝、横の長さを環境とすると、縦と横を掛けることで面積が求められます。
仮に遺伝が同一でも環境によって面積が変わり、環境が同じでも遺伝によって面積が変わる。この面積の差が一人ひとりの能力差であり、よい遺伝を受け継ぐ子供ほど個人の能力が高くなると期待できます。
ただし子供は父親からも母親からも遺伝子を受け継ぎますが、一卵性双生児以外はきょうだいでも、親から受け継ぐ遺伝子の組み合わせは違います。どの遺伝子をどう受け継ぐかは、まるでくじ引きのようなもの。コントロールなどできないのです」
なんとも「残酷な真実」だ。しかしその一方で、事実を突きつけられたことで「救われた」とため息をつく母親たちもいる。
「仮に子供の知能や性格が家庭環境で決まるとしたら、その責任はすべて親が負うことになります。こうして子供が発達障害や不登校になると『子育てに失敗したからだ』と親が責められることになる。
私が著書で子供の人格形成に遺伝がかなり大きく影響しているという研究を紹介したら、『救われました』という親からの感想がたくさん届きました。遺伝の影響を一切認めない『環境決定論』はものすごく残酷なのです」(橘さん)
※女性セブン2021年9月2日号