甲子園で力投する大分・明豊高校時代の今宮健太。特徴的な「ツバ曲げ」と「型付け」(時事通信フォト)

甲子園で力投する大分・明豊高校時代の今宮健太。特徴的な「ツバ曲げ」と「型付け」(時事通信フォト)

 小中高大と野球漬けの日々を過ごし、社会人になった今でも地元のクラブチームに所属し野球を続けているという会社員・橋本晃さん(仮名・30代)は、この「帽子の変化」の分岐点を見た、と力強く証言する。

「野球部って基本みんな坊主だから、思春期でオシャレに目覚めた子なんか、プライベートでは帽子が手放せないんです。我々の現役時代に流行ったのが『NEW ERA(ニューエラ)』の帽子です。ヒップホッパーなどがかぶるイメージでしたが、球児にとっても憧れの存在で、皆が競って『ニューエラ』の帽子をかぶっていました。この帽子は、ツバを真一文字にキープして着用するのがカッコいいとされていて、私も、部活用の帽子のツバをまっすぐに戻した経験があります」(橋本さん)

『ニューエラ』といえば、今では老若男女を問わず人気の鉄板カジュアルブランドだが、当時のその目新しさに、球児たちが羨望の眼差しを向けていたという。米・メジャーリーグの動静がいつでもわかるようになった時代で、『ニューエラ』の帽子を被り大活躍する大人気メジャーリーガー達が影響している可能性もある。これらだけが「変化」の理由というわけではないだろうが、ある意味で、狭い高校野球界でも多様な価値観が形成されるきっかけの一つだった、ということかもしれない。橋本さんが続ける。

「でも、新しけりゃいいってもんじゃないし、高校野球界に浅めの帽子が流行った時も、結局なんだかしっくりこなくて、元に戻したという学校もありました。ユニフォームだって、アマスポーツ界では高校野球だけが奇抜さを嫌いますし、帽子のツバにしても最近の子は『自然な形がいい』とか『人それぞれだよね』と言いますよ。その中での精一杯の自己主張が『ツバ』なら、かわいいもんじゃないですか」(橋本さん)

 ツバがこれでもかというくらいに曲げられ、坊主頭の上に帽子が乗せられただけのスタイルの球児を見てニヤニヤするのも、そしてその球児が大活躍して一気に「ファン」になってしまうのも、高校野球観戦ならではの醍醐味に違いない。「真一文字」のツバスタイルは極端になりようがないとも思えるが、独自の工夫をこらし、どう変化を遂げていくだろうか。

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