「富めるものはますます富み……ではないですが、余裕のある家庭の子供はコロナ禍だろうが勉強も遊びもなんでもできて、余裕のない家庭の子供は勉強も遊ぶこともできない。たとえ学習意欲がある子でも、そうした環境に陥れば、成績は確実に落ちます」
こう話すのは、東京都内の学習塾経営・松尾隆さん(仮名・40代)。商店街に位置する地域に根ざした中堅規模の学習塾で、授業料も手頃だからか、あまり学習意欲の高くない子たちが「なんとなく通う」ような場所だった。しかし、コロナ禍が続き、生徒の親たちが経済的に困窮し始めると、子供たちの様子は一変した。
「土地柄、飲食店経営など商売をしている親御さんが多かったせいか、塾を辞めたり、授業数を減らす子供達が出てきたんです。事情が事情だから、授業料を据え置きにするなどして対応してきましたが、それでも親御さんが店を畳んだりして、塾を辞めていく子もいました。この頃からでしょうか、子供たちの中に、妙なヒエラルキーが生まれたような気がします」(松尾さん)
塾の生徒のうち、家が裕福だったり、コロナの影響をほとんど受けていない家庭の子供たちが、授業にあまり来られなくなったり、辞めていく生徒に対して軽蔑するような目を向け始めたのである。
「生活に心配がない家庭の子達は、塾の他にも有料の学習アプリで勉強したり、親たちのバックアップをしっかり受けている。そうでない子は、裕福な子達を羨ましそうに見ている。まさに『格差』を目の当たりにしたような気分でした」(松尾さん)
大人でも「格差」を感じた瞬間、人間関係はどうしても歪んでしまう。それが子供なら尚のことで、塾に通えなくなったことは、親の収入の多寡が関係しているとすぐに察し、誰が有利で誰が不利なのかを感じ取る。現状、そこで「いじめ」が起きているわけではないというが、子供達の世界でも「分断」が起き始めているのではないかと危惧しているという。
また、学力だけでなく体力も同様で、両親がコロナ禍に翻弄されていることでずっと自宅に閉じこもり、夏休みの間、全く運動をしないという子供も出始めている。コロナ禍が終われば、全てが解決される、という風潮もあるが、すでに取り返しがつかないほどの「格差」が出現している可能性も高い。
どこにもいけない、遊べない子どもたちにとっては退屈だった夏休みが終わり、新学期が始まった。だが、大人だけでなく子供も含めたコロナ感染拡大が止まらない場合は、休校になったり短縮授業になる可能性もあるだろう。そうなれば、生まれつつある格差は際限なく広がっていくのは自明だ。だが、こうした子供達の機微に気づけないくらいに、今は大人たち自身に余裕がなくなっているのだ。