ポイントは「決選投票になるかどうか」
では、何のために党員票の情勢分析が必要だったのか。最近の総裁選各候補の動きをトレースするとその狙いが浮かび上がってくる。河野―石破連合(候補者の一本化)に向けた動きだ。
今回の総裁選の構図は、これまでとは全く違う。自民党内に強い影響力を持っている安倍晋三・前首相と麻生太郎・副総理の2Aにとって最も望ましいのは岸田氏の総裁就任だとされる。岸田氏は政策的にはリベラルと見られているが、安倍政権で引き立てられ、政治力学的には2Aの流れを汲む“傀儡候補”と言っていい。2Aは自分たちの意向に逆らわない岸田氏が総理・総裁になれば従来通り政権に影響力を維持できる。
しかし、菅首相の不出馬表明によって河野太郎・規制改革相や石破茂・元幹事長が出馬に動くと、菅首相は河野氏を支持、石破氏は二階氏に支援を求めた。2Aによって政権の座を追われることになった菅首相と二階氏が、河野氏や石破氏を担ぐことで岸田後継=2A支配の阻止に動き出したのだ。
安倍長期政権以来、政権中枢で手を組んできた安倍氏、麻生氏、菅氏、二階氏の4人が、安倍―麻生VS菅―二階に分かれて戦う。今後も自民党の安倍-麻生支配が続くかどうかをかけた、自民党に久しくなかった、潰すか潰されるかの権力闘争に発展している。
岸田氏優位と見られてきた総裁選の情勢は、河野氏らの出馬の動きで一変した。総裁選のカギを握るのは党員投票だ。
「党員票では岸田より河野や石破のほうが強い。議員票でも、中堅若手議員には“総選挙の顔”には岸田総裁より河野総裁のほうが有利と考えている者が多いから、派閥の引き締めは利かなくなっている」(竹下派ベテラン)
党員票だけでなく、有利と見られていた議員票でも岸田氏の優位は揺らいでいる。安倍氏のお膝元の最大派閥の細田派、麻生氏率いる麻生派でも中堅若手が自主投票を求め、2Aのグリップが利かなくなっている。そこで2Aは、岸田氏、河野氏、石破氏の事実上の“三つ巴”の戦いになった場合、票が割れて誰も1回目の投票で過半数を取れない事態を想定し、岸田氏を2位以上にして、決戦投票に持ち込む作戦に切り替えた。
決戦投票は国会議員383票(と都道府県に各1票)による投票で行なわれるため、中堅若手の票が河野氏らに流れても、細田派、麻生派、岸田派、竹下派など主流派の大勢がまとまれば岸田氏が勝てるとの読みだ。安倍氏が高市氏の支援に動いているのは、リベラルの岸田氏とは肌が合わない自民党タカ派議員の票を高市氏にまとめさせ、河野氏や石破氏に流れないようにする狙いがある。高市氏を出馬させて票を分散させ、決戦投票に持ち込もうという“捨て石”作戦だ。
菅首相―二階氏側が「岸田阻止」するためには、総裁選の第1回投票で河野氏、石破氏が1位と2位を占めるか、あるいは河野―石破のどちらかを出馬辞退させて一本化し、連合を組むしかない。