“説明しない政治家”に説明を求めることが難しいとしても、SNSの使用法という観点からこうしたあり方を改善していく手立てはないのだろうか。その点について西田准教授は「プラットフォーム事業者の責任にももっと目を向けるべき」と語る。
「例えばアメリカの大統領選挙において、政治に関する偽情報が影響を与えそうだという理由で、ルールに基づいてドナルド・トランプ氏のアカウントが凍結されましたよね。大統領選挙の時には他にも、偽情報と思われる情報をツイートしようとすると、『本当にツイートしても大丈夫ですか?』といったアラートが出るという対策もなされました。このようにSNSにおける問題は、プラットフォーム事業者と共同で解決していく必要があるはずです。
日本における偽情報対策は総務省の『プラットフォームサービスに関する研究会』が中心になって対策の議論をリードしていて、欧州などと同様に民間の自主的な規律で対応するという方針なんですね。つまり立法でいきなりルールを定めるのではなく、業界でルールを設けて自主規制を中心にするというやり方です。
そうした動きを受ける形で、昨年、一般社団法人セーファーインターネット協会に『Disinformation対策フォーラム』という意見交換の場ができました。僕も参加しているんですが、各プラットフォーム事業者と有識者、それから関係する各省庁もオブザーバーで入っていて、1年半ほど議論を重ねてきました。しかし現状では同じようなことが各所で確認されるばかりで、プラットフォーム事業者が日本でどのような偽情報対策を行っているのかすらよくわからないままなんです。
そこで、プラットフォーム事業者に対して、偽情報に限らず日本における政治的公共性に関係する問題解決にコミットメントするようもっと強く求めていく、という道筋はありえると思います。今回の件についていえば、日本で政治家のSNS上の発言は公共性が高いので誰もが見られるべきであると考えるなら、例えば政治家に関してはブロック機能を実装しないようにプラットフォーム事業者に求めていく、といった動きが世論のなかにあってもよいのではないでしょうか」(西田准教授)
改善に向けて日々試行錯誤されているとはいえ、プラットフォーム事業者が暴言やヘイトスピーチを放置していることはたびたび問題となってきた。中国や韓国への誹謗中傷で炎上したアカウントを運営していたメンバーを含む日本青年会議所とTwitter Japanがパートナーシップ協定を結び、「情報・メディアリテラシーの確立」に向けて「リテラシーの理解やモラルを高めるのに役立つ情報をツイート」するという矛盾した動きが批判されたこともある。
健全な“デジタル社会”を目指すのであれば、個々のユーザーの問題点を追及するだけでなく、プラットフォーム事業者に働きかけることによって、物理的に問題が発生しないようなアーキテクチャをインターネット上に構築していく必要もあるだろう。そのような改善が進んでいけば、たとえ“説明しない政治家”が野放しになっていたとしても、少なくともSNS上では政治家が市民に対して耳を傾けざるを得ないような環境は作ることができるのではないか。
◆取材・文/細田成嗣(HEW)