コラム

やまないネット中傷 厳罰化で悪質投稿抑止へ一歩

インターネット上の誹謗(ひぼう)中傷対策を強化するため、法務省が刑法改正を法制審に諮問することで、「侮辱罪」が厳罰化される見通しとなった。テレビ番組に出演していた女子プロレスラーの木村花さん=当時(22)=が昨年5月、会員制交流サイト(SNS)で誹謗中傷を受けた後、自ら命を絶ったことを契機に進んだ厳罰化の議論。被害者の救済や中傷の抑止につながると期待される一方、批評行為との線引きや利用者のモラル向上など課題も多い。

書き込み特定なお課題

木村さんはSNSで「死ねやくそが」「きもい」などと投稿される被害に遭い、警視庁はツイッター上で木村さんに寄せられた書き込みのうち、約300件が中傷に当たると判断。ただ、中傷の多くが名誉毀損(きそん)罪に問うことが難しく、侮辱罪が適用された。

警視庁が侮辱容疑で書類送検した2人のケースを除き、捜査対象としていたアカウントの人定に至る情報を得ることに難航。他の投稿は1年の公訴時効の壁に阻まれ、捜査は終結した。刑法が制定された明治40年から変わらない法律に「時代遅れ」との声が上がるきっかけになった。

ネット上の中傷問題に詳しい藤吉修崇(のぶたか)弁護士によると「書き込みの投稿者を特定するために情報開示請求をする必要があるが、身元特定まで半年はかかる。時効が1年だと特定の時点ですでに時効が間近に迫っていることがある」という。

特定までに要する時間を緩和するため来秋までに施行される予定の「改正プロバイダー責任制限法」では、1度の申し立てで裁判所が投稿者の情報を開示するかどうかを判断し、運営事業者や接続事業者に命令を出せる新たな裁判手続きを創設する。

警視庁捜査関係者は、法改正や時効の延長が、「抑止効果につながる」とする一方で、「ツイッターなどは照会に応じてくれない場合も多く、捜査の難しさは残る」と明かす。

批評行為との線引きは

投稿をどう評価するかについても課題がある。

藤吉氏は「投稿が批評なのか侮辱なのか、厳罰化されるに伴い判断にはより慎重にならなければならない」と指摘。「ネット上の誹謗中傷が問題になっても悪質な書き込みはなくなっていないのが現状」とみる。厳罰化に伴って、利用者のモラル向上に向けた取り組みなどが重要な課題となっている。(吉沢智美)

「一歩ずつ進んでいることはありがたい半面、被害の重さや深刻さに比べると厳罰化したとしても、まだまだ軽い印象を受ける」。木村花さんの母、響子さん(44)はオンラインでの会見で、刑法の「侮辱罪」の罰則強化に対する思いを口にした。

花さんが22歳という若さでこの世を去った後、響子さんは娘の無念を晴らすため、中傷した投稿者に対する法的措置を検討し、SNS事業者などに投稿者の情報開示請求を進めた。だが、匿名の人物を特定することは容易ではなく、手続きに時間や費用がかかり、刑事罰を科す〝タイムリミット〟が刻々と迫った。

こうした現状を受け、響子さんはネット上で侮辱罪の厳罰化を求め、今年4月から署名活動を開始。今月8日時点で6万3千件に上る賛同が集まったという。活動を続ける中で、響子さん自身も中傷に悩まされた。自らを奮い立たせるため、髪形をプロレスラー時代のアフロヘアに戻したが「不謹慎だ」などと中傷が相次いだという。

それでも、厳罰化を訴え続けてきた。国は侮辱罪の罰則強化の方針を表明。響子さんは「時効が1年から3年に延びたことは本当に大きい」と評価する。一方で、「被害者は命を落とすまで追い詰められたり、心の病気になって仕事ができなくなってしまったりする。被害の深刻さに比べ、まだ軽いという印象」とし、「これを始まりとし、被害者が速やかに救済されるよう今後も国などに働きかけていきたい」とした。

響子さんは、花さんの24歳の誕生日の今月3日、ネット上での中傷根絶を目指すNPO法人「リメンバー・ハナ」を設立した。若者へのネット上での中傷や人権侵害についての教育活動に取り組むほか、国などにSNS対策や相談窓口設置を働きかける予定だ。

「花が望んだ優しい世界にしたい」と響子さん。「SNSでは自分の投稿を削除したとしても、ずっと残り続けてしまう。被害者も加害者も、その危険性について知ってもらいたい」と語った。(王美慧)

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