コラム

日本人の食生活を変えた「1970年」の衝撃 ファミレス、ファストフードも登場

1970年は戦後外食史の転機に(写真は同年にオープンした日本初のハンバーガーショップ『ドムドムハンバーガー』)

 ミシュランガイドによる三つ星店が、全国に点在する日本は、世界に冠たる美食の国。そして、ファミレスやファストフードが充実している“外食天国”でもある。外食は、ほんの50年ほど前までは庶民に縁遠い存在だったが、約半世紀をかけて浸透しながら、日本の食文化を育み、いまや私たちの食には欠かせない存在となった。コロナ禍で、自由に飲食店でワイワイ食事を楽しめないいまこそ、そんな外食の歴史と魅力を振り返ってみよう。

【写真】1971年に開業した『ロイヤルホスト』の1号店。他、『マクドナルド』1号店や『ミスタードーナツ』1号店も

「江戸の昔から、日本人の胃袋と心を満たし、人のつながりを生み出してきたのが、実は外食でした」と話すのは、『日本外食全史』(亜紀書房)の著者であり、作家で生活史研究家の阿古真理さん。

「外食には大きく3つの目的があります。1つは会食、2つ目は日々の食事の賄い、3つ目がおいしいものを趣味として楽しむレジャー。このうちコロナ禍でいま制限されているのが、飲食店での会食です。会食は人をもてなしたり、絆を深めたり、情報交換したりするコミュニケーションの場であり、友人や仲間と愚痴を言ってストレスを発散する場であり、人との会話で触発したり、されたりする働きもありました」(阿古さん・以下同)

 つまり、外食は単にものを食べる場ではなく、私たちの精神衛生上にも不可欠なものだったのだ。

「戦後の外食史は1970(昭和45)年が“外食元年”とされます。まだ海外旅行が遠い世界だったこの年に大阪万博が開催され、各国のパビリオンに併設されていたレストランで、コーラやハンバーガー、フライドチキン、インド料理などを初めて食べた日本人が多くいました」

 万博開催を境に外資系のファストフードやファミリーレストランのチェーンが登場し、リーズナブルな価格で食べられる外食が浸透していく。

「かつての外食は家族で行く“ハレ”の日のイベントでした。たとえば、家族全員がドレスアップして百貨店に行き、買い物の後で食事をするのが大きな楽しみでした。それが1980年代になるとマイカーが普及し、ファミレスにふだん着で行くようになり、その頃から10代の学生でもお小遣いでファストフードを店で友達と楽しむようになっていったのです」

ファミリーレストランの登場

 敗戦から朝鮮戦争の特需を経て日本の所得レベルが上がり始めると、食生活はでんぷんから動物性たんぱく質消費へとシフト。1960年の所得倍増計画発表前後には、新しい食のニーズに対応したフランス料理や中華料理などの高級レストランが各地に出現し始める。『香雪社』代表で、食の専門サイト『Food Watch Japan』編集長の齋藤訓之さんが話す。

「そんな中、江頭匡一という実業家が『キルロイ特殊貿易』という会社を設立し、『ロイヤル』というフランス料理店を開業します。彼は1970年の大阪万博のアメリカ館にも、この店を実験的に出店しており、その経験を生かして1971年に開業させたのが、『ロイヤルホスト』でした」(齋藤さん・以下同)

 日本人に洋食を身近にしたファミレス第1号は、1970年開業の『すかいらーく』国立店。すかいらーくグループはのちに、“多店舗展開”でファミレス業界を牽引するトップカンパニーへと成長していく。

「実は1960~1970年代に『商業界』(日本の小売・流通業向けに出版やセミナーなどを行っていた出版社)や『柴田書店』の外食セミナーを受講した起業家が相当数いたそうです。そうした人材が、のちに日本の外食の担い手になっていった点も見逃せません」

米国ファストフードの日本参入

 外食元年である1970年は、日本人の食生活が様変わりした年でもある。その象徴である米国のファストフード店が、日本に初登場したのは、大阪万博に出店した『ケンタッキーフライドチキン(KFC)』だ。

 1969年の第二次自由資本化という規制緩和で、自由化の対象に外国資本の外食も入り、米国ファストフードチェーンの日本参入が可能になった。

「米国で成功していたKFCは、大阪万博に出店した実験店でも好調な売り上げを記録。翌1971年には名古屋に郊外型ショッピングセンターの1号店を出店し、華々しくデビューを飾るはずでしたが、実際は予想外の大苦戦。郊外を狙うには時期尚早だったのです」(齋藤さん)

 1970年には日本初のハンバーガーショップ『ドムドムハンバーガー』が東京・町田に開店。1971年には東京・銀座に『マクドナルド』、大阪・箕面に『ミスタードーナツ』がオープン。1972年には『ロッテリア』や『モスバーガー』も誕生し、日本社会にファストフードの食文化が急速に根付いていく。

 令和に入り、2019年に『ドムドムハンバーガー』が「丸ごと!!カニバーガー」を発売し、SNSで話題になるなど、コロナ禍に負けずに復活している点も注目だ。

【プロフィール】
阿古真理(あこ・まり)/作家・生活史研究家。1968年、兵庫県生まれ。食や暮らし、ジェンダー問題などをテーマに執筆。著書に『昭和の洋食 平成のカフェ飯 家庭料理の80年』(ちくま文庫)など。

齋藤訓之(さいとう・さとし)/『Food Watch Japan』編集長。1964年、北海道生まれ。『柴田書店』、『日経BP社』を経て独立。『香雪社』を設立し、外食、食品を中心に執筆。著書に『外食業界のしくみ』(ナツメ社)など。

※女性セブン2021年9月23日号

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