『歴史戦と思想戦 ──歴史問題の読み解き方』(集英社新書)などの著書を持つ戦史・紛争史研究家の山崎雅弘氏が、現在の日本が直面する諸問題と『失敗の本質』について解説する。
「安倍前首相や菅現首相の非常時対応が、戦争中の失敗例と重なって見えることが多いのは、当時の思考形態や世界観、いわば『大日本帝国型の精神』を今なお継承しているからだと思います。
先の戦争で日本軍が繰り返した作戦上の失敗は、前線部隊の技量不足ではなく、計画と実行における指導部の能力不足が主な原因でした。具体的には、情報を自分たちに都合良く解釈し、勇ましい言葉を並べて異論を封じ、兵站(補給=物理的な裏付け)を軽視して『現場』に過大な目標を押し付け、複数の目標の優先順位を明確にせず、最初に決めた方針にいつまでも固執し、失敗しても『現場の努力不足』に責任を転嫁し、人命の損失を軽視するパターンが繰り返されました。
感染症拡大という医療分野の非常時にもかかわらず、安倍政権も菅政権も、医療現場の声に耳を傾けず、自分たちのやりたい作戦(東京五輪など)を優先しました。深刻なのは、『大日本帝国型の精神』には、失敗を反省して改めるという発想がないことです。社会がこのパターンを放置すれば、また同じことが繰り返される可能性が高いと思います」
9月以降、新規感染者数は減少に転じ、「第5波はピークアウトした」との見方が出始めた。自民党総裁選・衆院選を控えた今、コロナ対策の「成果」をアピールしたい政治家もいることだろう。9月9日に行われた会見で、菅首相は、10月〜11月を目処に条件付きで行動制限を緩和していく方針を示したが、「第6波に備えて慎重に判断すべきではないか」との指摘もある。
また、東京五輪・パラリンピックが感染状況にどのような影響を及ぼしたのか、十分な検証がされたとは言えず、結局「うやむやにされてしまった」という印象は否めない。今の日本に必要なのは、景気のいい目標を掲げることではなく、反省すべき点をしっかり反省し、“失敗の本質”を掴んで改めることではないか。
◆取材・文/原田イチボ(HEW)