こうした医師会の体質がコロナ対応に影響したという指摘がある。他国に後れをとったワクチン接種では、打ち手不足や現場の混乱など、日本は初動で躓いたことが大きかった。医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師が語る。
「遅れているワクチン接種を進めるために政府が打ち手に歯科医師を加えようとした時、最後まで難色を示したのが日本医師会の執行部。医師の権限、既得権を奪われることに反対したわけです」
PCR検査の拡充においても、同じような構図があったという。
「PCR検査を増やすために政府が鼻腔・咽頭ぬぐい液の採取を歯科医に要請した際にも、厚労省と日本医師会は反発しました。PCR検査も医師の専権事項にしたいのでしょう。本来ならPCR検査についても医師会が独自案を出して政府に提案すべきところですが、肝心なことはやっていない。
アメリカではアメリカ医師会が独自の見解や提言を出していますが、これがあるべき医師会の姿でしょう。日本医師会が会見で発信することも、国民が緩む緩まないといった精神論ではなく、何をやればこうなるという科学的な情報であるべきです」(上医師)
7月29日、日本医師会や日本歯科医師会などの医療団体が連名で緊急声明を出した。
〈感染拡大に応じて確保病床とされている準備病床を即応病床に移行するには、少なくとも10日から2週間を要します〉などと政府へ提言したが、前出の榎木医師が語る。
「それから1か月半経ちますが、今も日本医師会は病床不足を訴えている。病床不足は医師会に責任があるわけではないが、増やすために有効な提言を持ち前の政治力を使ってやることはできたはずです。医師の権利を守るための陳情はできるのに、医療体制を整え、コロナ患者への対応を十分にできるようにするための提言や要望はまったくできなかった」
政治家もモノ言えない
日本医師会の中川会長は8月17日付で全会員に「お願い」の書簡を送付していた。そこには〈どうか、新型コロナウイルス感染症患者さんの入院が難しい医療機関におかれましても、今一度、受け入れのご検討をお願いします〉などと綴っている。
「感染者が増え医療逼迫が激しくなったタイミングでさえ、こうした『お願い』しかできないというのが日本医師会の最大の問題です。黒幕のようなイメージを国民に抱かせていますが、実際には選挙以外では医師らに対してなんら影響力を行使できない。指令を出す権限もない。その程度の組織だったのです」(榎木医師)