「総選挙の顔」を選ぶはずの自民党総裁選。出馬した4人は、今後の日本を占う上で重要な役割を担うが、現実的には4人の候補より安倍晋三・前首相と麻生太郎・副総理という2人のキングメーカーのほうが政治的存在感を発揮している。
とくに安倍氏はツイッターで高市早苗・前総務相との2連ポスターを公開したり、議員に電話を掛けまくるなど自分の総裁選以上の熱の入れようで、「高市が票を伸ばしていることに上機嫌」(安倍側近)なのだという。
安倍・麻生の2Aが取ったのが「3股作戦」だ。安倍氏の出身派閥・細田派は高市氏と岸田文雄・前政調会長を支持、麻生派は河野太郎・規制改革相と岸田氏への支持をそれぞれ打ち出し、「誰が勝っても2Aの権力は残る」(安倍側近)という計略をめぐらせた。だが、そうした計略が、逆に2Aの権力基盤を脅かしている。自民党で繰り返されてきた派閥の“世代間闘争”を呼び起こしたからだ。
「安倍さんのやり方は田中角栄・元首相に似ている。闇将軍になるつもりなら細田派は危うい」
そう語るのは同派の長老だ。こう続けた。
「かつて最大派閥・田中派を率いた田中氏は、総裁選では自分の派閥から総裁候補を出さず、数の力で大平正芳氏、鈴木善幸氏、中曽根康弘氏らを順番に首相に据え、キングメーカーと呼ばれた。しかし、派内の不満がたまって最後は子分だった竹下登・元首相にクーデターを起こされた。安倍さんも同じ道を辿ろうとしている」
たしかに自分の派閥から総裁候補を出馬させないという手法は似ている。安倍氏は前回の総裁選で無派閥の菅義偉・首相を支持し、今回もわざわざ無派閥の高市氏を担ぎ出した。細田派では安倍側近の下村博文・政調会長が出馬を希望していたにもかかわらず、安倍氏は後押ししようとはしなかった。細田派から総裁候補が出馬すれば、派内の世代交代が進んで実権を失う。派閥の後継者をつくらないのはキングメーカーの常套手段と言っていい。
そうした手法は細田派内に大きな“不満のマグマ”を生み、ついに若手議員の“決起”を招いた。福田康夫・元首相の長男で「細田派のプリンス」と呼ばれる達夫氏が“長老支配打破”を掲げて派閥横断的な若手グループ「党風一新の会」(約90人)を旗揚げし、細田派からも1~3回生議員16人が参加した。
達夫氏は衆院当選3回とまだ若手だが、安倍氏にとってはキングメーカーとしての地位を脅かす存在だ。細田派は達夫氏の祖父の福田赳夫・元首相がつくった福田派がルーツで、いわば派閥のオーナー家と言える。3代目の達夫氏も、祖父、父に続く「将来の総理・総裁候補」の呼び声が高い。党内では、小泉進次郎・環境相の“兄貴分”としても知られる。
「安倍家と福田家には3代にわたる確執がある」と指摘するのは両家に詳しい政治ジャーナリスト・野上忠興氏だ。
「派閥の創立者である福田赳夫さんは、安倍氏の父・晋太郎さんが初めて総裁選に出馬したとき、子飼いの中川一郎氏を出馬させてわざと晋太郎さんの票を削った。晋太郎さんに後継者として力をつけさせないためだった。2代目の康夫氏と安倍氏も肌が合わず、小泉政権時代に官房長官と副長官として北朝鮮政策をめぐって激しく対立した。
因果はめぐるで、いまは攻守所を変えて安倍氏が派の実権を握っているが、派閥を奪い返されないために福田家の3代目に絶対に力をつけさせたくないはずです」