派閥の力学と言えば、一番分かりやすいのは田中角栄氏が語った「政治は数であり、数は力、力は金だ」だ。同じような意志意見を持つ者が結束した集団における意志決定は、多数決の原理に基づいている。だが河野氏は、TBSの番組で「派閥をまとめることは全く必要がない」と明言し、「グループでまとまって誰を選べというのは民主主義ではない」と述べたという。
その発言の意図は、多数決の原理の背景にある「同調圧力」への警戒だ。“同調”は他者や集団からの圧力によって、暗黙のうちに人や少数派の意見や行動が変化することを言う。この時かかる圧力を一般的に同調圧力と呼んでいる。
今回の総裁選も、派閥からの同調圧力は見られた。安倍晋三前首相は派閥の若手らに自ら電話して「裏切られるようなことがあったら、こっちから縁を切る」と語気を強めていたという報道もあった。決戦投票になった場合の派閥対応について聞かれた二階俊博幹事長もドヤ顔で「(派閥でまとまって)対応したくない人は出ていってもらうよりしょうがないね。ちょっと愚問じゃないかな、こういうプロの世界では」と述べていた。
二階氏の言うようにプロの世界で票が動くのは、同調圧力だけではない。勝ち馬に乗るという「バンドワゴン効果」もあれば、自分で判断が付かず、他者の意見や行動に迎合するような「多数派同調バイアス」もある。二階派では「迷った場合は会長や幹部に相談いただきたい」という念押しがあったというぐらいだ。派閥の力学が票を動かすには、同調圧力以外の心理的要因やバイアスがいくつもあるだろう。河野氏はそこを見誤ったのかもしれない。
もうすぐ岸田新政権が発足する。派閥の力学が“新しい自民党”を目指す新政権にどう影響するのか、まずは人事に注目したい。