芸能

清原果耶の『おかえりモネ』 定番イメージを覆す異色の朝ドラとなった理由

清原果耶

清原果耶は新しいヒロイン像を演じた

 放送枠が持つ視聴者のニーズと作品としての新鮮さをどう両立させるか、ドラマ制作者の腕の見せどころである。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。

 * * *
 見れば見るほど新鮮。残り1ヶ月となったNHK連続テレビ小説『おかえりモネ』は、今まで見たことのないパターンの連続と言えるのではないでしょうか。その理由を挙げるとすれば……。

【1】主人公の若く美しい女性が、伏し目がちで自信も笑いも少なく、キラキラ感を抑えた新しいヒロイン像であること。
【2】物語がドラマチックに展開しそうなところも敢えてブレーキ。派手なドラマツルギーは摘み取っていく私小説的な作風。
【3】自己肯定感が他国に比べ低いと言われる日本人を正面から映したような、内省的な描き方。罪悪感・トラウマの解消が中心テーマという設定。

「若さ」「ドラマチックな展開」「自己肯定感」の三つを敢えて封印した異色作と言えないでしょうか。

 主人公・百音を演じる清原果耶さんはまだ19才です。しかし百音のキャラクターは伏し目がちで迷ったり悩んでいる表情が多く、あれこれと逡巡するシーンが目に付く。うら若き女性の弾ける感じがいつ現れるのかと思いつつ、すでに5ヶ月が過ぎました。いくら清原さんが大人びていると言っても、それ以上に脚本の設定が「箸が転んでもおかしい年頃」を封印した。その点がユニークです。

 【2】の「ドラマチックな展開を封印」した事例でいえば、百音と同じ東京のシェアハウスに暮らす宇田川さんの正体が、「明かされなかった」ことが象徴的でした。人づきあいが苦手で夜にガタガタ、ゴトゴト音をたてる宇田川さんという不思議な存在。いったいどんな人なのかと視聴者の憶測は盛り上がった。しかし結局は、故郷に戻ることになった百音に絵を贈っただけで、最後まで宇田川さんという人物が画面に登場することはありませんでした。

 通常のドラマならば、ひっぱってきた「謎」の種明かしをしてみせて、その人が物語に絡んで予想外の方向に展開していく……といった手段を使うところ。脚本家は敢えて正体を明かさず、「みなさんで考えて」とボールを投げ返したのです。ドラマツルギーの封印という斬新な手法です。

 【3】については、3.11の津波を体験しなかった百音。故郷に居なかったことを「後ろめたい」と思い罪悪感のようなものを抱え続けている。この朝ドラは簡単に言えば、トラウマをどう解消していくかが、最大のテーマになっています。

 しかし、「震災の時にいなかった」ことは、彼女の罪なのか。本人の意図を超えた自然災害・津波を「見なかったことがそんなに悪いことなんでしょうか?」という視聴者の疑問も時々耳にします。

 もちろん、自分のせいではない。そんなことわかっていても、しかしどこかでこだわり続けてしまう自分がいる。そんな繊細な心のあり様を描いた内省的ドラマなのです。

 時に空気を読みすぎたり他に同調を求めすぎたり細かなことにこだわりすぎたりする日本人の特性、否定的な思考に陥りがちな国民性を映してもいる。そうした人の心の中に降りていき感情の揺れを細やかに丁寧に描いています。

 従来の朝ドラの、明るくさわやか、優等生、しっかり者で前向きでといった主人公の定番イメージを覆していく異色のドラマになった理由ではないでしょうか。

関連記事

トピックス

水原一平氏のSNS周りでは1人の少女に注目が集まる(時事通信フォト)
水原一平氏とインフルエンサー少女 “副業のアンバサダー”が「ベンチ入り」「大谷翔平のホームランボールをゲット」の謎、SNS投稿は削除済
週刊ポスト
解散を発表した尼神インター(時事通信フォト)
《尼神インター解散の背景》「時間の問題だった」20キロ減ダイエットで“美容”に心酔の誠子、お笑いに熱心な渚との“埋まらなかった溝”
NEWSポストセブン
水原一平氏はカモにされていたとも(写真/共同通信社)
《胴元にとってカモだった水原一平氏》違法賭博問題、大谷翔平への懸念は「偽証」の罪に問われるケース“最高で5年の連邦刑務所行き”
女性セブン
富田靖子
富田靖子、ダンサー夫との離婚を発表 3年も隠していた背景にあったのは「母親役のイメージ」影響への不安か
女性セブン
尊富士
新入幕優勝・尊富士の伊勢ヶ濱部屋に元横綱・白鵬が転籍 照ノ富士との因縁ほか複雑すぎる人間関係トラブルの懸念
週刊ポスト
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン
カンニング竹山、前を向くきっかけとなった木梨憲武の助言「すべてを遊べ、仕事も遊びにするんだ」
カンニング竹山、前を向くきっかけとなった木梨憲武の助言「すべてを遊べ、仕事も遊びにするんだ」
女性セブン
大ヒットしたスラムダンク劇場版。10-FEET(左からKOUICHI、TAKUMA、NAOKI)の「第ゼロ感」も知らない人はいないほど大ヒット
《緊迫の紅白歌合戦》スラダン主題歌『10-FEET』の「中指を立てるパフォーマンス」にNHKが“絶対にするなよ”と念押しの理由
NEWSポストセブン