最後の夏は、秋春に着けた背番号「1」ではなく「7」でプレーした。全試合で安打を放つなど、三番・レフトとして攻守で勝利に貢献する中、決勝の9回2アウトの場面で村田監督は金井をマウンドに送った。スコアは17対3。指揮官の想いが詰まった起用だった。
「大会中もグラウンドに戻って、投げ込みをしていました。金井が苦しんでいたのはみんなが知っていたので、最後は金井で締めようと思っていました」(村田監督)
渾身のストレートでライトフライ。わずか1球だったが、金井にとっては大きな1球となった。その後、甲子園でも1イニングに登板し、三者凡退に抑えた。最速148kmのストレートはまだ戻っていなかったが、ケガから復帰し、マウンドに戻ってこられたことが何よりも大きなことだった。
キャプテンの安達大和が言う。
「金井は2年夏まで無双状態で、強豪に投げても全然打たれなかった。相模の石田もすごいピッチャーですけど、金井のストレートも負けていない。自分たちの自慢のピッチャーです」
3年夏の県大会決勝、金井が投げている姿を見て、「苦しんできた姿を知っているから」と安達は涙を流していた。
女房役の立花祥希は言う。
「ピッチングの能力はもちろん、練習のときからチームを引っ張ってくれて、一番存在感があるのが金井。人間的にも信頼しています」
村田監督曰く「金井は野球小僧。こちらが止めないと、いつまでも練習をしている男」。
ピッチングでここまで悩み、壁にぶつかったのは初めてのことであろう。3年夏に使っていた帽子には、『闘志』の二文字を書き入れていた。フォームやコントロールを気にしすぎて、「強い気持ちで戦えていなかった」という想いからだった。
将来的な目標は「球界を代表する投手」。
ポテンシャルの高さと将来的なスケールを評価する球団が出てくるかどうか。10月11日、復活を信じ、支えてくれた仲間とともに吉報を待つ。
【プロフィール】
大利実(おおとし・みのる)/1977年生まれ。成蹊大学卒業後、スポーツライターの事務所を経て2003年に独立。著書に『高校野球継投論』(竹書房)、『高校野球界の監督がここまで明かす!投球技術の極意』(カンゼン/7月20日発売)などがある。