スポーツ

ヤクルト・村上宗隆 「清宮の外れ1位」が覚醒するまで

主砲・村上宗隆の覚醒前夜(時事通信フォト)

主砲・村上宗隆の覚醒前夜(時事通信フォト)

 東京五輪では正三塁手として金メダル獲得に貢献し、シーズンではホームラン・打点の二冠王を争いリーグ優勝に突き進む。高卒4年目のスターはしかし、高校時代は同期に後れを取る存在だった。その覚醒前夜を、ノンフィクションライターの柳川悠二氏がレポートする。(前後編の前編、後編は〈HR量産のヤクルト・村上宗隆 宮本慎也氏「500本は確実に打つでしょう」〉

 セ・リーグの首位を走る東京ヤクルトの立役者といえば、21歳の主砲・村上宗隆である。クライマックスを迎えている今シーズンは38本塁打(1位)、105打点(2位、いずれも10月12日時点)と、二冠に向けていずれも巨人・岡本和真とマッチレースを演じている。だが、村上はかねてこう公言してきた。

「狙えるのならしっかり狙って獲りたい。ただ、初タイトルより優勝したいという気持ちが強い」

 東京ヤクルトは10月8日の阪神戦に勝利してマジック11が点灯し、6年ぶりのリーグ制覇も目前だ。村上はこの夏、東京五輪・決勝のアメリカ戦で左中間に先制本塁打を放って日本に金メダルをもたらし、つい先日は清原和博を抜く21歳7か月の史上最速で通算100本塁打に達した。

 村上が天王山を迎えていた頃、私は阿蘇くまもと空港に降り、熊本城内にある藤崎台球場に向かった。九州学院高校時代に肥後のベーブ・ルースと呼ばれた若きスラッガーの足跡を辿っていると、街中いたるところにあるご当地キャラ「くまモン」のポスターやぬいぐるみも、村上に見えてくる(実際によく似ている)。

 この日、藤崎台球場では秋季熊本大会の準々決勝が行なわれていた。熊本工業との伝統校対決に敗れた九州学院にも、村上によく似た球児がいた。その名は村上慶太。村上の5歳下の弟である。身長は190cmを超え、16歳時点の体つきは兄に勝る。兄と同じ右投げ左打ちの慶太は、先制打に加え、左中間に大きな二塁打を放った。逆方向への強い当たり、それもまた兄の真骨頂である。

「センターから逆方向の意識は常に持っています。兄は兄、自分は自分ですが、将来的にはプロ野球で活躍できる選手になりたい。ポジションはファーストとサードです」

 ピンチとなれば真っ先に投手に駆け寄って激励し、仲間の好プレーには誰より大きなジェスチャーで喜びを共有していた。そういうところもまた、兄とうり二つだ。

地元の星となるべく地元の高校に

 2000年2月2日に3312gで生まれ、三兄弟の次男として育った村上は、父と兄の影響を受け5歳から野球に励むようになる。託麻南小学校では軟式野球チームに入り、6年生の11月からは2歳上の兄も所属していた硬式野球の熊本東リトルシニアに入団する。

「身体はお兄ちゃんや弟の方が大きかったけど、とにかく遠くに飛ばすことにかけては天性のものがあった。スイングスピードも速かったですが一生懸命に力を込めたから打球が飛ぶわけではない。力を抜いて、リラックスした状態でボールを飛ばすコツを知っていた」

 そう話したのは吉本幸夫監督だ。当時、空港に近い益城町にあった練習グラウンドは、右翼が80mしかなく、13mほどの高さのネットを越えた先には農家の小屋があった。左打者である村上の打球はよく、小屋の石膏スレートの屋根を直撃し、穴を開けていた。

「頻繁に穴を開けるものだから、あらかじめスレートの板を用意しておいて、打球が飛ぶ度にお父さんが謝りに出向いて、自ら屋根を取り替えていました(笑)。今となっては良い思い出ですね」

関連キーワード

関連記事

トピックス

《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
大阪桐蔭野球部・西谷浩一監督(時事通信フォト)
【甲子園歴代最多勝】西谷浩一監督率いる大阪桐蔭野球部「退部者」が極度に少ないワケ
NEWSポストセブン
がんの種類やステージなど詳細は明かされていない(時事通信フォト)
キャサリン妃、がん公表までに時間を要した背景に「3人の子供を悲しませたくない」という葛藤 ダイアナ妃早逝の過去も影響か
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
女性セブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平の通訳・水原一平氏以外にもメジャーリーグ周りでは過去に賭博関連の騒動も
M・ジョーダン、P・ローズ、琴光喜、バド桃田…アスリートはなぜ賭博にハマるのか 元巨人・笠原将生氏が語る「勝負事でしか得られない快楽を求めた」」
女性セブン
”令和の百恵ちゃん”とも呼ばれている河合優実
『不適切にもほどがある!』河合優実は「偏差値68」「父は医師」のエリート 喫煙シーンが自然すぎた理由
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン