「総選挙で信任をいただければ、数十兆円規模の総合的かつ大胆な経済対策を最優先でお届けする」──そう公約した岸田文雄・首相は、公明党が掲げた18歳以下の子供への一律10万円給付案に「現金給付は実現したい」とすり寄り、菅前政権が推進したGo Toキャンペーンについても、「平日も利用できる方には利用してもらう」と再開する姿勢を見せている。
だが、そんな首相の前に立ちはだかるのが、月刊誌(『文藝春秋』11月号)で与野党の選挙公約を「バラマキ合戦」「このままでは国家財政は破綻する」と批判した矢野康治・財務事務次官が率いる財務省だ。
岸田首相と矢野氏とは“因縁”がある。首相の義弟(妹婿)である可部哲生・国税庁長官は有力な次官候補だったが、矢野氏との出世競争に敗れ、昨年7月の同省人事で国税庁長官に回った。省内には「岸田首相誕生が1年ちょっと早ければ可部次官だった」との見方もある。いわば首相にとって“義弟の仇”だ。
一方、財務省きっての財政再建派として知られる矢野次官にすれば、それまで財政再建論者だった岸田氏が総理になるためにバラマキ論に転じたことが“変節”に映る。官邸人事でも財務省は岸田首相に失望している。
「菅内閣では官邸を仕切る総理首席秘書官は財務官僚だったが、岸田首相は元経産次官の嶋田隆氏を起用し、官邸の主導権をライバルの経産省に奪われた」(同省OB)
そこで財務省は総選挙後の補正予算編成で「財源なきバラマキは認めない」と大型景気対策に徹底抗戦する構えだ。
矢野氏ら財務官僚のバックにいるのが副総理兼財務大臣を8年9か月務めた「財務省の守護神」麻生太郎氏だ。麻生氏は大臣在任中に矢野氏の月刊誌への「バラマキ批判」寄稿を承認し、岸田内閣の組閣で退任が決まると後任の財務大臣に義弟(妻の弟)である鈴木俊一氏を据えて省内に院政を敷いた。