ライフ

独り暮らしの老人に弁当を届け、その写真を撮りながら僕が感じたこと

10年間、独り暮らしの老人に弁当を届けるアルバイトを続けた福島あつしさんの写真が話題を呼んでいる

10年間、独り暮らしの老人に弁当を届けた福島あつしさんの写真が話題を呼んでいる(『ぼくは独り暮らしの老人の家に弁当を運ぶ』より)

 独り暮らしの老人が、散乱した部屋で、必死に弁当に食らいつく──。福島あつしさんの写真は昨年の「KYOTOGRAPHIE京都国際写真祭」で話題を呼び、今年、写真集『ぼくは独り暮らしの老人の家に弁当を運ぶ』(青幻舎)が出版された。福島さんが独り暮らしの老人に弁当を届けるアルバイトを始めたのは2004年。「豊か」だと思っていた日本のイメージは一瞬で崩れ去った。その後、日本の高齢化が加速する中で、福島さんは葛藤を繰り返しながら、独居老人の姿に人間本来のたくましさ、しぶとさを見出していく。老いて独りで生きることの厳しさと尊さを写真に撮るまでの道のりを伺った。

 * * *

こんなところに人が棲んでいるのか、という衝撃

──独り暮らしの老人に弁当を運ぶ仕事を始めたきっかけを教えてください。

福島:アルバイトを始めたのは22歳のときで、写真は関係なく、純粋にお金を稼ぎたいから始めました。タウンワークか何かで仕事を探していて、面白そうだなと思ったんです。高齢者に弁当を届ける会社って、今は増えていますが、17年前は珍しかったんです。で、初日に衝撃を受けました。弁当配達の仕事には安否確認も含まれているので、家の中に入っていくんです。そうすると、家の中がぐちゃぐちゃだったり、強烈な臭いがしたり。うわーって。こんなところに人が棲んでいるのか、日本ってこんな国だったんだ、と思ってしまいました。

──独居老人には様々な事情があると思いますが、お客さんはどんな人が多かったんですか?

福島:タワーマンションに住んでいるようなお客さんもいたんですが、多くは、中流といいますか、ごく普通の人たちだったと思います。だから経済状況と関係なく、心身のコントロールがきかなくなった結果、独りでこういう状況に陥っている、という感じの人が多かった。普通の家庭の最後の姿だけに、ショックを受けたんだと思います。それまで漠然と抱いていた、縁側でお茶を飲み、子や孫たちに囲まれてほのぼの暮らす、という老後のイメージが崩れていきました。

──なぜ、お客さんたちの撮影を始めようと思われたのでしょうか。

福島:きっかけは、アルバイトを始めて半年くらいたったときに、弁当屋の店長さんが勧めてくれたことです。僕が大学(大阪芸術大学)時代、写真をやっていたことを話していたからですね。ただ、店長さんは、笑顔の写真などを撮ってプレゼントしたらお客さんが喜ぶんじゃないか、という感じで言ってくれたんですが、僕は衝撃が強すぎて、この状況を撮るなんて無理だと思いました。まして、お客さんに「にっこり笑ってください」などと言ったら嘘になるだろうと。

関連キーワード

関連記事

トピックス

水原一平氏のSNS周りでは1人の少女に注目が集まる(時事通信フォト)
水原一平氏とインフルエンサー少女 “副業のアンバサダー”が「ベンチ入り」「大谷翔平のホームランボールをゲット」の謎、SNS投稿は削除済
週刊ポスト
解散を発表した尼神インター(時事通信フォト)
《尼神インター解散の背景》「時間の問題だった」20キロ減ダイエットで“美容”に心酔の誠子、お笑いに熱心な渚との“埋まらなかった溝”
NEWSポストセブン
水原一平氏はカモにされていたとも(写真/共同通信社)
《胴元にとってカモだった水原一平氏》違法賭博問題、大谷翔平への懸念は「偽証」の罪に問われるケース“最高で5年の連邦刑務所行き”
女性セブン
富田靖子
富田靖子、ダンサー夫との離婚を発表 3年も隠していた背景にあったのは「母親役のイメージ」影響への不安か
女性セブン
尊富士
新入幕優勝・尊富士の伊勢ヶ濱部屋に元横綱・白鵬が転籍 照ノ富士との因縁ほか複雑すぎる人間関係トラブルの懸念
週刊ポスト
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン
カンニング竹山、前を向くきっかけとなった木梨憲武の助言「すべてを遊べ、仕事も遊びにするんだ」
カンニング竹山、前を向くきっかけとなった木梨憲武の助言「すべてを遊べ、仕事も遊びにするんだ」
女性セブン
大ヒットしたスラムダンク劇場版。10-FEET(左からKOUICHI、TAKUMA、NAOKI)の「第ゼロ感」も知らない人はいないほど大ヒット
《緊迫の紅白歌合戦》スラダン主題歌『10-FEET』の「中指を立てるパフォーマンス」にNHKが“絶対にするなよ”と念押しの理由
NEWSポストセブン