腸には1000種類、40兆個以上といわれる多種多様な細菌が棲んでおり、食物の消化活動だけでなく、うつや自閉症、アレルギーや免疫力など、あらゆる症状にかかわることがわかっている。
国内にも糞便の移植を行うクリニックは少なくない。そこでは意外な効果が期待できる。腸内環境に詳しい岡山大学大学院環境生命科学研究科教授の森田英利さんが話す。
「たとえばうつ病は、うつになるから腸内フローラ(腸内細菌叢)が悪化し、その結果としてうつがひどくなるという、負のスパイラルによって悪化していきます。そこにうつ病ではない人の便を移植して腸内フローラのバランスがよくなれば、うつも改善するといった正のスパイラルが発生する可能性があります」
ならば、腸内フローラの状態によって、「若返り」も可能ということだろうか。
「100才を迎えようとする長寿者に、特異的な腸内フローラがあることは確認されているため、考え方としては糞便の移植により健康寿命が延ばせる可能性はあるかもしれません。
しかし、長寿者の糞便をそのまま移植しても効果があるのだろうか、ということです。若い時点での便でないと効果がないかもしれない。『便バンク』を活用し、健康だった若いときの便を残しておき、その中から100才まで生きた人の便を移植するということになるかもしれない。
長寿の人々の便を解析することで新たな発見を得られ始めていますので、そう遠くない年月でこのような試みが現実的になる日が来るかもしれません」(森田さん)
医学的に認められた実績のある便微生物移植の場合、腸内フローラは生活習慣や食事で変化するため、腸内フローラに悪影響を及ぼす生活を続けていれば、移植した有用な腸内フローラのバランスを維持できなくなってしまう。
※女性セブン2021年11月11・18日号