本作では読者の裏をかき、度肝を抜くためにも一度書き上げたルートを没にし、自作の裏を自らかくことで、誰も予想しなかった展開を実現しようとしたという。
「なかなか簡単には騙されてくれない読者を欺くには、まず自分からって(笑)。そうまでしても、僕は読む人をアッと言わせたいし、一気に読ませたいんです」
そうしたハラハラ、ドキドキの先に、〈麻美を逮捕し監獄に閉じ込めて、それで全部に蓋をする。上が考えてんのはそういうこと〉といった台詞がリアルに響く社会への疑念や怒りが生まれる。著者の言うゴリゴリ読めるエンタメとは、そんな骨太で建設的な真に面白い小説を意味するのだ。
【プロフィール】
青木俊(あおき・しゅん)/1958年、横浜市金沢区出身。「横浜市民が『あそこは横浜じゃない』と言う金沢文庫です(笑)」。上智大学卒業後の1982年、テレビ東京入社。報道局、香港支局長、北京支局長等を経て2013年に退社し、執筆に専念。2016年『尖閣ゲーム』でデビューし(文庫化の際『消された文書』に改題)、冤罪問題や司法の壁に挑む個人の闘いを描いた第2作『潔白』は大きな話題に。著書は他に盟友・清水潔氏との共著『知ろうとしないことは罪だ』。171cm、72kg。O型。
構成/橋本紀子 撮影/国府田利光
※週刊ポスト2021年11月19・26日号