コラム

感染症が死因上位だったのは昔のこと…現在の死因1位は? 医師・山本健人が著書で解説

『すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険』山本 健人 ダイヤモンド社

 今も昔も猛威を振るってきた「感染症」。しかし、感染症の原因が「微生物」であると発見されたのは、約100年前のことです。その発見から「その微生物だけを殺す薬をつくれば治療できる」と、病気の原因を特定してそれに合う薬を投与するようになったのは、実は長い人類の歴史において、ごく最近のことなのです。

 そこから、治らないとされていた病気も、新しく発見された感染症も、人類は医学の力で乗り越えてきました。「医学を学ぶことは、途方もなく楽しい」というのは、『すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険』の著者である消化器外科専門医・山本健人さんです。山本さんは本書で、人体のしくみや「がんや心疾患、感染症などを例に、人は何によって命を失うのか」などを丁寧に解説しています。

 今回紹介したいのは、本書の第2章「人はなぜ病気になるのか?」です。かつては、世界で一番の死因となっていた感染症も、先述のとおり治療法が確立してからは激減しました。では現在は? 「1980年代から死因の1位を独走し、今なお増え続けているのが悪性新生物、すなわち、がんである」と山本さん。

 がんによる死亡率が増えたのは、感染症のように治療が進歩していないからかというと、そうではありません。昔はがんになる前に他の病気で死んでしまっていたけれど、医療の進歩により長く生きられるようになり、相対的にがんで死亡する割合が増えたのです。

 実際は「がん治療は近年驚くほど進歩した。新たな抗がん剤が次々に生まれ、手術の質が向上し、放射線治療や免疫療法など、使える武器がますます増えてきたからだ」と山本さんは記します。医療はずっと進歩を続けているのですね。

 がん以外で死因の上位を占めているのは、心疾患と脳血管疾患(脳卒中)です。これらの背景には生活習慣と関連して発症する高血圧や糖尿病などの「生活習慣病」があると山本さんは指摘します。

 「生活習慣病」は、以前は「成人病」と呼ばれていました。歳をとれば現れる防ぎようのないものだと考えられていたからです。しかし食習慣や運動習慣などで改善・予防できることから、1996年ごろから「生活習慣病」と呼ばれるようになりました。

 生活習慣病が背景にあるといわれると、自身の生活が脳裏をよぎり、ドキッとしてしまいます。健康を意識した生活習慣を心がけるのはもちろん大切なことです。では発症したら生活習慣に気をつけなかった人の「自己責任」なのでしょうか。山本さんは「病気の原因はそれほどシンプルなものではない」といいます。

 つまり、大なり小なり体にはダメージが蓄積され、”どれほど健康な人でも歳をとれば必ず死ぬ”のです。山本さんは「あえてざっくりと表現するなら『今の日本人の多くは、がんか生活習慣病か加齢で亡くなる』といえる」とまとめます。

 本書ではほかにも、人体のしくみの面白さを解説した章もあります。ひとつ、以下の実験をしてみてください。

「今読んでいる文字を固定し、目を動かさずに他の文字を読もうとしてみてほしい。おそらく、ぼやけて読めないのではないだろうか? そしてあなたは、視線を動かさない限り、『文字を読める範囲』が非常に狭いことに気づくはずだ。(中略)普段このことに気づきにくいのは、無意識に視線をせわしなく動かし、常に対象物を中心で捉えているからだ」(本書より)

 試してみると視野の狭さに驚きます。山本さんは本書で目の精巧なしくみについて、カメラのレンズを例に詳しく解説しています。その内容はここでは書ききれないため、ぜひ本書で確かめてみてください。

 ほかにも、すぐに試せる実験がいくつか紹介されており、実際に試してみると「人体ってこうなっていたのか」と身をもって実感できます。また、「ミステリードラマで頭を殴られて床に血だまりが広がるシーンがなぜかよく使われるけれど、実は頭皮は出血しやすいため致命傷とは限らない」や「おならができるのは肛門の識別機能のおかげで、人工ではつくれないシステムだ」など、思わず笑ってしまうような内容も。

 医学関連の本は難しいため、ただ読むだけでは疲れてしまう人も多いかもしれません。しかし本書にはこうした遊びがあり、専門用語も丁寧に解説されているので、非常にわかりやすいです。一番身近で大切な体のことを、ぜひ本書で楽しく学んでみてください。

[文・春夏冬つかさ]

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