鉄道警備は鉄道公安職員から民間へ
小田急線と京王線、両事件の犯人は快速急行・特急という停車駅の少ない列車を選んでいる。停車駅が少なくなれば自然と駅間は長くなり、乗客は逃げ場を失う。また、駆けつける警察官や駅係員の到着を遅らせることもできる。まさに、用意周到な犯行といえる。
乗車時間が長い列車が狙われた点から考えると、もっとも危険と思われるのが新幹線だろう。東京駅を起点とする東海道・山陽新幹線は、路線距離が約1069.1キロメートル。くだりの「のぞみ」は、神奈川県の新横浜駅を出発すると次の停車駅が愛知県の名古屋駅。約1時間半もノンストップで走り続ける。
「東海道新幹線の『のぞみ』は、2020年3月のダイヤ改正で1時間に12本を運行しています。その全列車に警備員が警乗する体制をとっています」と説明するのは、JR東海広報部東京広報室の担当者だ。
言うまでもなく、鉄道を狙った事件や鉄道車内での犯行は最近になって起きるようになったわけではない。鉄道が全国に広がっていくと同時に、鉄道関連の事件は増えていった。そのため、大正時代から鉄道を主軸にした警備制度がスタート。当初は警察機構が取り締まっていたが、しだいに鉄道職員へ権限が移譲されていく。
戦後の混乱期は、駅構内や列車内での治安を強化する必要性が生じた。こうした背景から、再び鉄道職員から警察に鉄道の治安対策が委ねられる。警察機構による警乗で列車内の治安は向上した。
しかし、鉄道当局の内部からは「駅構内や列車内は国鉄自身が管理するべき」との自律性を重んじる声が強く、国鉄は自律的に治安を維持する鉄道公安職員を発足させた。
テレビドラマで「鉄道公安官」として描かれたことにより有名になったが、正式名称は鉄道公安職員。そして、あくまでも警察官や刑事などではなく、鉄道の職員に過ぎない。それでも鉄道公安職員には、通常の警察官と同等の銃を所持することや令状を取得して捜査する権限が与えられていた。
国鉄職員ながらも警察官のような権限が与えられていた理由は、国鉄が運輸省の外郭団体という位置付けだったからだろう。
そうした鉄道公安職員も国鉄の分割民営化によって役目を終える。民営企業のJR職員が、拳銃を所持することは不適当とされたからだ。
現在、各都道府県警察が駅前交番などを設置して治安維持に努めている。とはいえ、駅前交番の警察官が列車内にまで警乗することはまずない。JRに改組して以降、主にJRから委託された民間の警備会社が駅構内や列車内の治安維持を担っている。