ドラマにはもう一人、耐える男が出てきます。加瀬弁護士(井浦新)です。大輝と加瀬はいずれも身近にいそうなリアルさがあり思い詰めていく真面目な性格もどこか似ている。そんな二人が、梨央(吉高由里子)を奪いあいながら守りあうという物語の構造もいい。
松下さんは34才、コツコツと積み重ねてきた苦労人です。鳴かず飛ばずの時期も長かったとか。何度もオーディションに落ちたというNHK連続テレビ小説でとうとう2019年『スカーレット』への出演を果たしました。
陶芸家のヒロイン・喜美子(戸田恵梨香)の夫・八郎という重要な役を演じ、「八郎沼にはまる」女性ファンも続出。しかし、実話では外に女を作って出て行った夫であり、ドラマの中でも喜美子に陶芸家になってほしくない、陶芸に情熱を注ぐ妻を引き留めたい、という不器用で煮詰まった夫で結局、喜美子と離婚してしまう。
男のワガママを垣間見せる八郎のような役もいいのですが、それ以上に、松下さんは今回の大輝のような一途に繊細に思い詰める男性像がハマる。そう、切なく耐える男をやらせたら右に出る者はいない。
「事件を追う刑事は、かつて心を通わせた最愛の人だった」というドラマのキャッチフレーズに凝縮されているように、結局このドラマは複雑なサスペンスや謎解きをしつつ、「最愛」の人に「夢中」になった孤独な男の物語のようにも映ります。