桜井が演じる菱田朋子という女性は、相良家と同じ団地に住むシングルマザー。職業は整体師で、相良家の長男と同い年の息子がおり、凌介の妻の1番のママ友でもある。第1話ではまともな人物かに思えたが、失踪事件が起こってからというもの、彼女の異常性は日に日に激しさを増している。世間から疑惑の目を向けられる凌介を味方する数少ない人物の1人なのだが、手料理を振る舞ったかと思えば、相良家に無断で上がり込んで凌介のシャツにアイロンをかけていたり、半ば強引に凌介にマッサージを施したり……。彼女の親切心は常軌を逸しているのだ。

 この菱田という人物は、脚本の時点ですでに恐ろしい存在なのだろう。しかし、だからといって、誰が演じても恐ろしくなるわけではなく、やはり的確な表現が求められる。これまでにも桜井は、さまざまなジャンルの作品で多くのキャラクターを演じてきたし、観客に恐怖を与えるような役どころも担ってきた。映画『マチネの終わりに』の嫉妬に狂った女性の役や、ドラマ『G線上のあなたと私』(TBS系) で演じた高低差の激しい性格のバイオリン講師役などが思い浮かぶ。アクの強い人物を演じることを桜井は得意としてきた印象があるのだ。

 しかし、今作で演じる菱田はまた一味違う。「ホラー」という声が上がるくらいである。端的に言って、視聴者への恐怖の与え方が露骨なのだ。当然ながら、照明やカメラのアングルなどの撮影技術によるものも大きいとは思うが、菱田の口にする気味の悪いセリフの発し方にはじまり、大きく目を見開き、瞬きを抑えた上目遣いのおぞましさなど、より“身体全体”で演じている印象がある。凌介に対する物理的な距離の詰め方などは、距離感の感覚も優れていなければならないと思う。これらの所作の、“静と動”、“小と大”、“緩と急”のメリハリが的確だ。これこそが、桜井ユキ演じる菱田の恐ろしさの理由なのではないだろうか。

【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。

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