国内

池袋暴走死傷事故遺族も新たな苦しみ “民事裁判”とは

9月18日、刑事裁判が終わったことを報告する松永拓也さん。しかし、戦いはまだ続いていた。(写真/時事)

9月18日、刑事裁判が終わったことを報告する松永拓也さん。しかし、戦いはまだ続いていた。(写真/時事)

 池袋暴走死傷事故の刑事事件が結審し、飯塚幸三元被告(90)は10月12日に東京拘置所に収容。これで事件は一段落か……と世間の多くの人は思ったかもしれない。しかし、妻の真菜さん(当時31才)と長女の莉子さん(当時3才)を失った被害者遺族の松永拓也さんは、12月15日に自身のブログで、

「現在、飯塚氏が契約していた損保会社と民事裁判をしています。正直、ここまで心を傷つけられるとは思わなかったです」

と民事裁判による二次被害について綴った。

「ビジネスである以上、損保会社は出来る限り交渉しようとするのは当然理解します。しかし最低限、人としての尊厳を傷つけないようにする配慮は出来るのではないかと思います。

 現在係争中のA損保の民事裁判の書面はとても攻撃的かつ挑発的でした。ただでさえ戻らない命が、全てお金に換算される虚しさ、そしてそれが故に多くを言えない被害者の心をえぐるような保険会社代理人のやり方」(松永さんのブログより)

 松永さんは、

「保険会社が争うことや担当者を批判しているのではありません。保険会社が契約した代理弁護人との間で、被害者側を煽ったり、むやみに傷つけないようにするルール作りを業界全体でしてほしいのです」

 と訴える。

 そして、6年前に終えた民事裁判でも、同じように二次被害があった、と松永さんがリブログしているのが、「一般社団法人 関東交通犯罪遺族の会」代表理事の小沢樹里さんによる「民事裁判の事情。二次被害はあたりまえ」という投稿だった。

 実際にどんな二次被害があったのか、小沢さんに取材した。

「交通事故の民事裁判はひどいことを言われる場所だよ、覚悟したほうがいい、と経験した方に言われてはいましたが、あそこまで心を殺されるとは思いませんでした」(以下カッコ内、小沢さん)

 小沢さんのご主人の両親と弟妹は、2008年2月、酩酊者が運転した車に衝突された。9人もの被害者を出した大事故だった。その事故により義父母が亡くなり、義理の弟は重体、そして義理の妹は重傷を負う。

 義弟妹は外傷や心的外傷後ストレス障害だけではなく、脳を損傷し「高次脳機能障害」(交通事故などによる脳外傷、脳梗塞や脳出血など脳が部分的に損傷を受けたために起こる障がい)が残った。その症状は、注意力や集中力が低下する、感情や行動のコントロールがしにくくなる、日常生活での一連の作業ができなくなる、などさまざまで理解されにくい。   

「21才だった義妹は、事故で顔中にひどい傷を無数負いました。損害を受けた場合、損保会社で傷の詳細を確認するのです。その傷を人に見られるも相当辛いですが、裁判の参考になるので、確認の当日、義妹はとても緊張しながらも損保会社に向いました。

 その時、担当者に、『高次脳機能障害っていうのは(指でジェスチャーしながら)クルクルパーだから』。続けて『障がいってのは違うんだよね』と言われたのです。

 あまりにも酷い言葉に『え、今何を言われたの?』と私はその場でフリーズしてしまい、言い返すこともできませんでした。損保会社の建物を出てから、ポロポロ涙を流す妹の背中をさすり『ごめんね』と繰り返すことしかできませんでした。

 義弟は第四腰椎骨折という脊髄損傷で、事故後、救急病院に運ばれた時はたくさんの管につながれて動くことができませんでした。命に関わる危険があったので、義父母の葬儀にも参列できなかったのです。その後リハビリのため県外の病院に移り、四十九日にはようやく医師の許可がとれたので、格安のバリアフリーのホテルを予約し、民間救急車で葬儀へ向かいました。

 葬儀で最後のお別れができなかった義弟妹は、小さくなった両親の骨壺を抱きしめて『ごめんね、お葬式に出られなくてごめんね』と1時間以上泣いていました」

 そんな状況を伝えても、損保会社からは「四十九日に出る必要がありましたか? 民間輸送車でなくて普通の自動車でいいでしょう? 家に泊まればいいでしょう?」と、それらの経費さえ認めないという意見書が出された。

関連記事

トピックス

水原一平氏のSNS周りでは1人の少女に注目が集まる(時事通信フォト)
水原一平氏とインフルエンサー少女 “副業のアンバサダー”が「ベンチ入り」「大谷翔平のホームランボールをゲット」の謎、SNS投稿は削除済
週刊ポスト
解散を発表した尼神インター(時事通信フォト)
《尼神インター解散の背景》「時間の問題だった」20キロ減ダイエットで“美容”に心酔の誠子、お笑いに熱心な渚との“埋まらなかった溝”
NEWSポストセブン
水原一平氏はカモにされていたとも(写真/共同通信社)
《胴元にとってカモだった水原一平氏》違法賭博問題、大谷翔平への懸念は「偽証」の罪に問われるケース“最高で5年の連邦刑務所行き”
女性セブン
富田靖子
富田靖子、ダンサー夫との離婚を発表 3年も隠していた背景にあったのは「母親役のイメージ」影響への不安か
女性セブン
尊富士
新入幕優勝・尊富士の伊勢ヶ濱部屋に元横綱・白鵬が転籍 照ノ富士との因縁ほか複雑すぎる人間関係トラブルの懸念
週刊ポスト
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン
カンニング竹山、前を向くきっかけとなった木梨憲武の助言「すべてを遊べ、仕事も遊びにするんだ」
カンニング竹山、前を向くきっかけとなった木梨憲武の助言「すべてを遊べ、仕事も遊びにするんだ」
女性セブン
大ヒットしたスラムダンク劇場版。10-FEET(左からKOUICHI、TAKUMA、NAOKI)の「第ゼロ感」も知らない人はいないほど大ヒット
《緊迫の紅白歌合戦》スラダン主題歌『10-FEET』の「中指を立てるパフォーマンス」にNHKが“絶対にするなよ”と念押しの理由
NEWSポストセブン