老舗リゾートホテルが生まれ変わる
コロナ禍と土砂災害の二重苦が観光業を襲うなか、2021年11月には熱海のシンボルともいうべき1973年開業の老舗リゾートホテル「ニューアカオ館」の宿泊営業終了が発表された。施設自体の老朽化が主な理由だが、コロナ禍で宿泊者数が減少したことも一つの理由となっているという。
熱海にとって災難続きの2021年が終わろうとしていた12月中旬、現地を訪ねてみると、そこでは熱海の逆境を跳ね返すべく試みられている、新たな取り組みの数々を目にすることができた。
その一つが、「熱海の魅力をアートにより再発見」することを目指し、昨年3月にACAO SPA & RESORT株式会社(当時は株式会社ホテルニューアカオ)が中心となってスタートした「PROJECT ATAMI」である。同年11月から12月にかけて、熱海市内の各所で計50組のアーティストによる作品が展示されるイベントが開催されていた。
なかでも、宿泊営業を終了したニューアカオ館を会場にした企画展「Standing Ovation | 四肢の向かう先」(キュレーター高木遊氏による)はSNSなどを中心に大きな反響を呼んだ。会場には連日のように長蛇の列ができ、予定されていた会期は1週間延長することに。来場者は累計1万人以上に達した。
「熱海は8割が観光業で成り立っている街で、コロナ禍のダメージは計り知れませんでした。そんな中、ACAO SPA & RESORT株式会社、東方文化支援財団の中野善壽さんのご縁により、熱海の魅力をアートにより再発見してもらい楽しんでいただく『PROJECT ATAMI』が2021年3月に始動しました。
このプロジェクトでは、従来の『観光』という形にとどまらず、アーティストと鑑賞者、双方向の学び合いや自発的な発見があるような出来事をつくることを目的としています」(「PROJECT ATAMI」事務局)
同プロジェクトは現在、滞在制作型のプロジェクト「ACAO ART RESIDENCE」と、アーティストをサポートする公募プロジェクト「ATAMI ART GRANT」の二つを取り組みの柱にしている。
「プロジェクト(PROJECT)の語源はラテン語で『未来に向かって投げかけること』。今まで熱海が積み重ねてきた温泉観光地としての歴史を踏まえつつ、未来に何を新しく投げかけるべきなのか。熱海に住む人、働く人、訪れる人それぞれに、アートを通して考えてもらう機会になれば、と。
アーティストは、その新しい目で、みえないものを目にみえる形にすることができる人だと考えています。熱海にアーティストを招き入れることで、『みえなかった色がみえてきて、色鮮やかな熱海を写すことができる』と考えています。結果、熱海の新たなイメージを人それぞれ受け取ることができると思っています」(同前)