95年にわたり地域の足を担ってきた北海道のJR留萌線の留萌―増毛間が2016年12月04日、営業運転を終了。終点の「増毛駅」は故高倉健さんが主演した映画「駅 STATION」の舞台としても知られる。駅には大勢の鉄道ファンらが詰め掛け、別れを惜しんだ(時事通信フォト)
オール北海道で鉄道を残すための取り組み
現在、沼田町はJR留萌本線の存廃問題で揺れている。深川駅-留萌駅を結ぶJR留萌本線は、2016年に留萌駅-増毛駅間が廃線に追い込まれた。しかし、末端部分を廃止しても留萌本線の収支が改善することはなく、今度は路線全体の存廃が俎上に上っている。
沼田町は、留萌駅-増毛駅間の廃止議論の際にも廃止反対を表明していた。同区間が廃止されても、特に沼田町には影響が出るとは思えない。それでも沼田町が鉄路の存続を訴えているのは、先述したように鉄道は北海道の基幹産業でもある第一次産業と観光業に大きな影響を及ぼすと考えているからだ。
第一次産業と観光業が衰退すれば、それは北海道そのものの存亡にも関わる。鉄道を守ることは、単に移動手段を守るというだけにとどまらず、北海道民の生活を守るということでもある。
「鉄道が廃止されることに伴う負の影響は、沼田町だけの話ではありません。仮に沼田町を走る留萌本線が廃止を免れたとしても、ほかの路線が廃止されてしまえば北海道全体が縮小していきます。沼田町だけのことを考えているのではなく、オール北海道で鉄道を残すための取り組みとして”鉄道ルネサンス構想”を提唱したのです」(同)
沼田町が打ち出した“鉄道ルネサンス構想”の内容は多岐にわたるが、肝心な鉄道を支える金銭面の仕組みとして、鉄道会員制度フリーダムパスポートの導入を提案している。
同パスポートは、一人が8000円を支払うことで道内のJR線が1年間乗り放題になるというものだ。これを全道民で購入して財政的な基盤をつくり、道外からのビジネス客・観光客の売り上げで収益をあげる。こんな収支シミュレーションを描いている。
鉄道ルネサンス構想を打ち出した沼田町は、石狩沼田駅が玄関駅。かつて石狩沼田駅は、札幌とを結ぶ札沼線の終着駅だった。つまり、石狩沼田駅には留萌本線と札沼線の2路線が乗り入れていたわけだが、1972年に札沼線は石狩沼田駅-石狩橋本駅間を廃止。さらに、2020年には北海道医療大学まで短縮した。
北海道医療大学駅までの沿線には大学が多く点在している。そのため、日々の通学利用者は多い。その区間だけを見れば、札沼線は道内でもピカイチの稼ぎ頭となった。
仮に、その先の鉄路が存続していれば、沿線に大学や企業を誘致できた。過疎化を抑制し、経済的な疲弊も緩和できただろう。日本全国で人口減少が加速している中でも、鉄道によって活気が生まれた自治体はある。その代表例が、近年になって人口増が顕著な自治体として注目を浴びる千葉県流山市だ。
流山市は、2005年につくばエクスプレスが開業したことで東京都心部と直結。アクセス面のよさから、30代を中心とするファミリー層が多く流入してきた。ファミリー層の増加を受け、行政も子育て支援に力を入れ始める。それが、さらなる人口増に拍車をかけ、地域は活性化。好循環につながっている。こうした事例からもわかるように、鉄道は単純に収支だけで判断できるものではない。