閉会後、台湾の女子選手が中国代表のユニフォームを着た姿をSNSにアップして台湾当局から処分されるというニュースを読んだ。開会式では旗手を務めた選手である。どうやら、選手同士の交流でユニフォームを交換して、練習の場で着用したらしい。中国は台湾という国を認めていないし、統一するためにいつ軍事介入するかもわからない状態だ。もしユニフォームの交換をした相手の中国の選手が写真をアップしたとしたら、台湾以上の「処分」が待っていることは想像に難くない。
どこが平和の祭典なんだろう。
オリンピックはそろそろ役目を終えようとしている
バッハ氏のスピーチは無駄に長いと思っていたが、彼の言葉によってはっきりとわかったことがある。オリンピックはそろそろ役目を終えようとしているということだ。
国を代表してスポーツを競う世界規模の大会を、かつてはこういうことでナショナリズム欲みたいなもの解消されれば戦争は減るのかも、なんてのん気に考えていた。しかし、オリンピックはもはや政治の道具、なおかつIOCの資金稼ぎの場。純粋なスポーツの祭典ではないことは明白である。
もう国同士で競い合うなんていう発想を捨てるべき時期にきたのではないだろうか。スポーツはあくまでも選手個人もしくはチーム同士で戦うもので、それ以下でもそれ以上でもない。バックアップするのが国であったとしても、国の威信や体面のために競う必要はない。
国という単位はあくまでも個人のためにあるべきという私の考えは、時々、甘っちょろいと批判される。外敵から国が守ってくれているのだと諭される。しかし、私は主張を引っ込めるつもりはない。わたしたちは誰も国のために生きているわけではない。
3月4日には北京パラリンピックが開幕する。一昔前まで日の目を見ることが少なかったパラリンピックだけれど、ここ数年でぐんと注目されるようになり、スター選手も生まれ「オリ・パラ」なんていういい方も定着した。しかし、プーチン大統領は北京オリンピックの閉幕までは待っても、パラリンピックまでは待たなかった。
世界平和を祈りたい。この言葉が大げさに聞こえる世の中に戻りますように。
◆甘糟りり子(あまかす・りりこ)
1964年、神奈川県横浜市出身。作家。ファッションやグルメ、車等に精通し、都会の輝きや女性の生き方を描く小説やエッセイが好評。著書に『エストロゲン』(小学館)、『鎌倉だから、おいしい。』(集英社)など。最新刊『バブル、盆に返らず』(光文社)では、バブルに沸いた当時の空気感を自身の体験を元に豊富なエピソードとともに綴っている。