「あさま山荘事件」について取材を受けた植垣康博氏(スナックにて撮影)

「あさま山荘事件」について取材を受けた植垣康博氏(スナックにて撮影)

 森は連合赤軍のメンバーに革命のための高い精神性を持つことを求め、それを「共産主義化」と呼んだ。総括中に亡くなれば、それは総括し切れずに死んだ「敗北死」なのだと位置づけた。

 外部と隔絶した冬の山中で、森が構築する常軌を逸した理論に植垣らは声を上げることもできなかった。一度、指導部のメンバーに「こんなことでいいのか」と聞いたが、「党建設のためだ」と返されると、反論することもできなかった。それどころか、植垣も同志を殴り、そして遺体を埋める作業に率先して加わった。遺体は身元の発覚を防ぐために素っ裸にしてから凍りついた土を掘って埋めた。

 指導部のメンバーの中で組織を乗っ取ろうとする反党行為があったとして森が「死刑」を宣告した時には、実行役としてアイスピックで心臓を突き刺し、それでも死なないと見るや首を絞めた。この死刑について話す植垣は決まって顔を歪める。

 山に集結した同志の中には、好意を寄せた女性もいた。大槻節子という。大槻とは結婚の意思を確認する仲だったが、その大槻も総括の対象となってしまう。以前の男性関係が問題とされたのだ。大槻にも共産主義化してもらいたい。その一念から「総括できていない大槻さんは好きではない」と本人に言ってしまうが、彼女も厳冬の山中で命を落としてしまう。

 植垣も総括要求の対象となりかけたこともある。過去に女性の同志に対して痴漢行為をしたことが問題とされた。それでも最後まで追い込まれなかったのは実務能力に長けていたからだと振り返る。

「爆弾の製造にしろ、山岳ベースの山小屋の建設にしろ、全て僕がいなければ指導部の連中は何もできない。だから生き残ることができた」

(第3回へ続く)

【プロフィール】
竹中明洋(たけなか・あきひろ)/ジャーナリスト。1973年山口県生まれ。北海道大学卒業。NHK記者、衆議院議員秘書、『週刊文春』記者などを経てフリーランスに。著書に『殺しの柳川』(小学館)など。

※週刊ポスト2022年3月11日号

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