択捉島蘂取で墓参する元島民ら(2018年撮影)

択捉島蘂取墓地で先祖に手を合わせる(2018年)

ロシア人女性と「仲良く一緒に暮らそう」と約束

 交流事業で元島民が島に戻った時、現地の子供たちは日の丸とロシアの旗を振って訪問者を迎えた。事業を機に現地のロシア人と家族ぐるみの付き合いを始めた元島民もいる。

 歯舞群島の多楽島出身の萬屋努さん(79)にも、ビザなし交流で訪れた択捉島で忘れられない思い出がある。当地で生まれたという30代のロシア人女性から「ここは私の生まれた島で、他に行くところがない」と言われ、お互いに泣きながら「平和条約が結ばれたら、仲良く一緒に暮らそう」と約束したのだ。

 だがロシアのウクライナ侵攻により、北方四島交流事業の継続は不透明になった。現地のロシア人とともに涙を流した萬屋さんは残念そうにつぶやく。

「北方領土にいるロシア人たちは交流を続けたいだろうけど、プーチンはやめたいと思っているはずです。プーチンは元島民の気持ちをまるでわかっていない。これからもビザなし交流や北方墓参、自由訪問を継続したいが、今回の件で非常に厳しくなった」(萬屋さん)

自由訪問で多楽島多楽石に上陸する元島民ら(2017年)

自由訪問で多楽島多楽石に上陸する元島民ら(2017年)

 民間人同士は着実に距離を縮めていたが、政治が両者の仲を引き裂こうとしている。小さい頃、歯舞群島の多楽島にいた河田弘登志さん(87)が語る。

「コロナで2年間、交流事業は全面的に中止され、今年はようやくコロナが落ち着いて事業の申し込みが始まったところでした。島に行けなくなって3年目なので、一日も早く島に行きたい。でもウクライナ侵攻の影響を受けないわけにはいかないでしょうね」

 北方四島交流事業の先にある「北方領土返還」にも暗雲が立ち込める。3月3日の記者会見でロシアのザハロワ報道官は、日本が北方領土の主権を主張することについて、「永久に忘れることを勧めたい」と発言した。さらに3月9日には、北方領土を事実上の経済特区に指定し、企業を誘致して実効支配を強める法案が発効された。

色丹島チボイにて(2017年)

色丹島チボイ(2017年)

 これまでビザなし交流に計12回参加し、SNSなどでロシア島民と交流を続けてきた色丹島・斜古丹出身の得能宏さん(88)はプーチン大統領への憤りを顕わにする。

「ソ連、ロシアはエゴの国で、自分たちに都合のよい理屈をつけて問答無用で戦争を仕掛けて不法占拠する。国民ひとりひとりはいい人でも、共産主義の指導者は相変わらずで、プーチンという人物を見ると非常に憤りを感じます。私は返還運動をあきらめませんが、やるせない思いでいっぱいです。寿命が近づいてもうそろそろ人生が終わるのに、こんなひどいことを見ることなく、北方領土返還だけを願って一日ずつ過ごしていきたかった」(得能さん)

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