シェアサービスも始まっている電動キックボード。シェアライドの利用は保険加入とセット(時事通信フォト)

シェアサービスも始まっている電動キックボード。運営会社が保険加入している(時事通信フォト)

好きな人には悪いですけど迷惑

 都下のコンビニで別のトラックドライバーと話す。事故はどうしても自動車、いわゆる四輪のほうが不利である。これは二輪全般に言える話だがどうしても自動車のドライバーに比べれば、ライダーの身体的被害が大きくなることが多い。過失割合で有利だとしても万が一、ライダーが死んでしまえば別問題である。ましてプロが運転する緑や黒の営業ナンバーは不利どころか職業ドライバー自身の仕事や生活にも影響が及ぶ。免許停止は営業停止と言ってもいい。被雇用者なら解雇という可能性もある。プロだから当然と言われればそれまでだが理不尽と思うのは無理もない。だからこそ、車両は何であろうと任意保険は絶対に入るべきと筆者は考える。ましてや「特定小型原付自転車」なる電動キックボードのノーヘル無免許無保険車(政府公認)など、現状の閣議決定のままなら施行することに反対である。

 繰り返すがそれで子どもや高齢者に衝突したら、後遺障害どころか死なせたりすれば、それこそ大変な賠償金になる。任意保険に入っていなければまず払えないだろう。自賠責すらないのでは下手をすると被害者は泣き寝入り、意外と知られていないが、無保険車の被害で泣き寝入りは多く、そもそも払えなければ払わなくていい、が日本の法律の限界である。多くの犯罪もそうだが何の資産もない加害者なら無い袖は振れない。刑事罰は受けるが、民事の結果で払えなければ払わなくていい。理不尽な話だが、裁判の勝ち負けと実際の賠償金の支払いは別問題である。

「興味はありますよ。路地をちょっとコンビニ行くのに自転車代わりと考えれば便利だと思います。面白そうな乗り物です。でもノーヘルで免許いらない、保険も任意って走って欲しくないですよ。好きな人には悪いですけど迷惑です」

 トラックドライバーには率直に語ってもらえたがそのとおりだと思う。もちろん「私は最高時速20kmの電動キックボードでもヘルメットを被るし任意保険もあるなら入る」という人はいるだろう。しかし残念ながらそうした道交法やモラルを遵守する人ばかりではない。現に自動車や自動二輪すら先に示したような任意保険の加入率、自転車も著しく低いヘルメット着用率なのだ。現行の原付扱いの電動キックボードすら、昨年末には事故と通報が相次ぐとして警視庁は取り締まりを強化した。

 冒頭の「無免ノーヘルが増えたら怖い」はそのとおりだと思う。原付のままではいけなかったのか。せめてヘルメット着用は必須にできなかったのか。もっと言えば自賠責の適用も、「特定小型原付き自転車」自体が特例措置なのだから適用できてもよさそうなものだ。いまからでも見直すべきである。シェアサイクルは運営企業が保険に入っているが、個人も厳しく加入を義務付けるべきだ。もちろん新しいパーソナルモビリティの可能性は否定しない。それを歓迎する向きもる。とくに外国の方、中華人民共和国(香港、マカオを除く)の方やベトナムの方は自国がジュネーブ道路交通条約に加盟しておらず、母国免許から日本の免許への切り替え(外免切替)が認められないため、時速20km制限とはいえ免許なしで走れることを歓迎する声もあった。

 最後に筆者の個人的見解だが、これを機に任意保険(義務化されていない地域の自転車含む)をすべての車両に強制化すべきと考える。言い方が難しいが、任意保険に入っていない人の多くが「無い袖は振れない」「保険入ってない者勝ち」の経済状態であることが多い。車やバイクに乗るのに保険代も払えないというのはそういうこと、と言われればそれまでだが、対人はもちろん、とくに対物は泣き寝入りのケースが多い。任意保険を強制化するなら、特定小型原付き自転車も現状案よりはマシになると思うが、どうか。もちろん先にも書いたヘルメットの着用義務化もセットである。

 時速20kmの無免ノーヘル保険なし、そんな電動キックボードが街中に増え続ければ仕事で走る多くの職業ドライバーはもちろん、多くの道交法を守り、モラルも守る運転者、歩行者までもが迷惑を被る可能性は限りなく高い。むしろ、電動キックボードが公道で市民権を得るためにも、受け入れられるためにも現状の改正案は見直すべきである。このままではさらに多くの不幸な交通被害者を増やすだけだ。

【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、社会倫理のルポルタージュを手掛ける。

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