2006年12月、「サハリン2」の権益譲渡が行われたモスクワで、プーチン大統領(中央)と握手する当時の小島順彦三菱商事社長(左)と槍田松瑩三井物産社長。この結果、ロイヤル・ダッチ・シェル、三井物産、三菱商事の出資比率がそれぞれ半分に低下、ロシアの国営天然ガス独占企業ガスプロムが経営権を握ることになった(EPA=時事)

2006年12月、「サハリン2」の権益譲渡が行われたモスクワで、プーチン大統領(中央)と握手する当時の小島順彦三菱商事社長(左)と槍田松瑩三井物産社長。この結果、ロイヤル・ダッチ・シェル、三井物産、三菱商事の出資比率がそれぞれ半分に低下、ロシアの国営天然ガス独占企業ガスプロムが経営権を握ることになった(EPA=時事)

ウクライナとロシアを両天秤にかける中国

 ロシアからは2009年からLNG(液化天然ガス)出荷が始まった「サハリン2」という開発プロジェクトを進めていた。三菱商事や三井物産など日本を代表する商社も絡んでいる。実際、日本の10%近くがロシア産のLNGとなるまで成長した。

「ロシアの侵略行為は許せませんが、当事者はもちろん、日本人も痛みを伴う制裁は避けなければいけません。中国のようにしたたかに進めるべきです」

 この「サハリン2」に参加していた英国に本拠地を置く多国籍企業シェルは撤退を発表した。これに限らず制裁に参加する企業は続出、別の開発プロジェクト「サハリン1」の米エクソンモービルも撤退に向けて操業停止、BPもロシアの石油事業からの撤退を表明した。ロシアも損害だがこれら大手エネルギー企業も数兆円規模の損失を被るとされている。しかし日本は一時的な停止という状態。日本商工会議所の会頭は、日本が撤退しても中国がロシアから貰うだけ、と警戒感を示している。

「そうでしょうね、中国はしたたかです。日本まで撤退すれば、あれだけのガス田をまるごと手に入れられる可能性があります」

 撤退すれば日本のLNGの10%が消える。国内価格も2割から3割上がるともいわれる。LNGは火力発電の主力燃料、東京電力によれば火力発電の7割はLNGとのこと。日本国内でも千葉県を中心に生産できるが国内需要のわずか2%程度、98%は輸入に頼っている。中国は制裁に参加することもなく、日本が育てた資源を漁夫の利で得ようとしている。

「それが中国です。私は戦争に反対ですしロシアは侵略者で許せません。でも企業利益はもちろん、国益、国民の生活を考えれば、このロシアの途方も無い資源を中国が独占する可能性はもっと問題視すべきです。サハリン1も含めて中国の覇権はさらに強固になります。ウクライナが勝って日本が負けるのは本末転倒です」

 あくまで商社マンとしての考えだが、現実的に考えればそうだろう。資源がないために苦しんできた日本、金がなければ誰も救けてくれないかもしれないし、先の大戦で大いに味わった禍根でもある。まして地震などの自然災害も頻繁で、火力発電所の一部停止を理由に3月22日に東京電力として初の「電力逼迫(ひっぱく)警報」を発令した。資源を他人頼みの日本のエネルギー政策など砂上の楼閣である。実際の戦争と同様に、経済もまた戦争である。筆者も友人のいるウクライナの勝利を願うが、日本が経済的に負けては話にならない。

「資源のある国や食料自給率の高い国はいいんですよ、しばらくは自国でなんとかできる。ロシアだって旧ソ連時代レベルの経済に戻ったって天然資源も食料もあります。国民も貧乏に慣れてるでしょうし。でも日本はあんな制裁を受けたら一瞬で崩壊するでしょうね」

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