今年1月には、東京・北青山の書店「クレヨンハウス」で行なわれた雅子さんと代理人の生越照幸弁護士の講演会に参加した。そこで参加者の一人が雅子さんに「一緒に頑張りましょうね」と声をかけるのを見て、筒さんは違和感を感じ、ふと気がついた。
「自分も当事者のつもりでいたが、結局は雅子さん一人が背負っている。雅子さんの中でも、ニュースで描かれる『正義の人』『悲運の人』としての俊夫さんが肥大化してしまっているんじゃないだろうか?」
そして「雅子さんのかけがえのない人としての俊夫さんを取り戻したい」と思うようになったという。
「悲運」ではなく「日常」を演じたい
俊夫さんについては、改竄をさせられた経緯、財務本省に反対意見を述べた正義感、改竄をきっかけにうつ病を発症し追い詰められていく過程が、各メディアで何度も報じられてきた。そこで筒さんは、よく知られている改竄から亡くなるまでの1年ではなく、改竄前の明るかった俊夫さん、まっすぐに生きた俊夫さんと雅子さんの“日常”を描こうと考えた。夫婦の平穏な日常の姿を演じることで、それを続けることが許されなかった不当さを浮き彫りにする。
筒さんが今回の一人芝居について語る。
「僕が感じたこの事件の問題の原点は『ある生が不条理に奪われた』ということです。それをうやむやにしようとする臆病が、自分にも内在します。その臆病を僕は乗り越えたいんです。雅子さんとはひょんなことで知り合って、歳の離れた友人のように接してもらっています。そんな僕だから感じうることがあるかもしれません。