赤木俊夫さんは、世の中の人たちにとっての『悲運の死を遂げた人』という姿と、妻の雅子さんにとっての『大切な人』という姿の、2つがあります。片方が肥大化してしまうと、もう片方が失われてしまう。今はそういう状況にあるんじゃないでしょうか。そこに、ちょっと変わった立場で関わってきた“いびつな”第三者として補助線を引くことができるのは僕かもしれないと思ったんです」
妻・雅子さんは「号泣しました」
上演に向けて筒さんは2月から3月にかけて2週間ほど関西に滞在し、俊夫さんのことを取材。神戸の雅子さんの自宅で話を聴いたほか、俊夫さんが亡くなった部屋に泊まり、俊夫さんが好きだった六甲山上の展望台やお気に入りのお店など、ゆかりの場所を回った。3月7日の俊夫さんの命日には、出身地の岡山県にあるお墓にお参りする際に本人になりきったように電車で移動したという。雅子さんと一緒に墓参を済ませた後は、夫婦の思い出の店や結婚式をあげた神社などを回って話を聴いた。
こうした取材を元に組み立てた一人芝居は、改竄の前年、俊夫さんのメモ帳に「桜満開」と書かれている日の翌日、2016年4月4日が舞台だ。起きてから出勤するまで、ありふれた日常の朝の1時間を再現している。
そのリハーサルの動画を見た雅子さんはこう話す。
「もう、号泣しました、一人でもたくさんの方に観に来てほしいです。そこにあってよかったはずの日常って、ほんとその通りですよね。そんな日常がどれほど幸せだったのか。もう忘れてしまっていた一日を再現してくれることで、人の幸せって何なのかを考えてみるキッカケにしてほしいです」
何気ない日常を強い気持ちで演じた筒さんの白熱の演技に注目してほしい。
文/相澤冬樹(ジャーナリスト)