プロモーターはマフィアとのつながりも
興業ビザの期間は3か月のため、ビザが切れると帰国しなければならない。Mさんはウクライナのプロモーターを使って4回ほど帰国と来日を繰り返した。だがそのうち、日本での募集を請け負っていたウクライナのプロモーターがいなくなり、ロシアのプロモーターばかりになったという。日本語が分かるようになったMさんは、店と直接交渉し、来日するようになった。
A氏は「ヨーロッパのプロモーターもロシアのプロモーターも、ほとんどマフィアとの関係がありました」と話す。Mさんは「知らない」ととぼけたが、女性たちは皆知っているが言わないだけだという。
当時、日本のプロモーターも暴力団と関係があったかA氏に尋ねると、「それぞれですよ。興行ですからねぇ」と答えた。Mさんにも、日本のヤクザを知っているか、どう思っているか尋ねてみた。
「知っているけど、パッと見ただけではヤクザかどうか分わからないね。友達があの人、ヤクザだよと教えてくれても、ふ~んって感じ。お客さんにヤクザはあまりいないけど、たまに来ても遊び方が普通の人よりうるさいぐらい。日本のヤクザは怖くない。そこまで危なくないよ」
そう話し、右手を顔の前でヒラヒラさせながら笑った。さらにMさんが続ける。
「ロシアのマフィアはすぐに人を殺す。ウクライナもロシアもマフィアは沢山います。以前はどこででも、すぐに殺し合いが始まっていました。ロシアでマフィアはビジネスだからね」と屈託がない。
ただ、今(取材当時)のウクライナは昔ほど悪い状況ではないと語っていた。
「今はマフィアもそこまでひどくありません。街は前より静かになったし、ウクライナでは仕事も給料も増えた。私たちみたいな仕事なら、わざわざ日本まで来なくても、隣のロシアでもらえる給料と変わらなくなりました。外国人クラブでウクライナ人が減ったのは、それも理由の1つ。キエフにもレストランが沢山できて、お店も増えて何でも買えるようなった。東京は便利だけど、街はキエフの方がきれい」
Mさんに話を聞いたのは、ロシアによるウクライナ侵攻など考えもしなかった昨年だ。彼女から次々と聞かされる来日当時の体験談は、日本の環境を当り前だと思っている筆者にとって、驚くような話ばかりだった。